ツーリズムで日本固有の伝統と文化を掘り起こす:産学連携を通じて収益化を目指す実証実験

研究プロジェクトの目的と概要

本プロジェクトでは、日本各地に偏在する固有の伝統や文化に着目し、産学連携を通じて収益化を図るツーリズムの実証実験を実施することを目的としています。

第一に、日本の伝統文化を地域のコンテキストとを融合したツーリズムの開発を目指します。日本には、古来から様々な伝統文化があります。例えば、着物や和食、日本酒、武道、芸能など、実はそれらは地域の生活に根ざして作り上げられたものであり、各地域によって様々な特徴の違いがみられます。本プロジェクトでは、日本の伝統、文化を育んできた地域を訪れ、直に体験するツーリズムの開発を目指します。

第二に、日本遺産を基軸としたツーリズムを目指します。日本遺産とは、歴史的魅力や特色を通じて日本の文化、伝統を語る物語を文化庁が認定するものです。世界遺産登録や文化財指定は、いずれも登録、指定される文化財の価値付けを行い、保護を担保することを目的としているのに対して、日本遺産は、地域に点在する遺産を活用し、発信することで、地域活性化を図ることを目的としています。現在は、出雲國たたら風土記やカムイと生きる上川アイヌなど105の物語が日本遺産として登録されています。本プロジェクトでは、日本遺産という物語をツーリズムとして収益化を目指した実証実験を行うとともに、後世に語り継ぐために社会実装する取り組みも行なっていく予定です。

第三に、日本固有のコンテンツ産業とコラボレーションしたツーリズムを目指します。日本固有のコンテンツとしては、アニメ、ゲーム、漫画などがあげられ、これまでも、コンテンツ産業とツーリズムとしては、聖地巡礼と称して取り上げられてきました。代表的な聖地巡礼としては、らき☆すたの埼玉県幸手市、ガールズ&パンツァーの茨城県東茨城郡大洗町などがあげられます。こうした聖地巡礼は、ファンが個人的にコンテンツに関する地域を調べ上げ聖地として祭り上げていましたが、近年ではコンテンツ産業が地域と積極的に関わりをもつことにより、聖地巡礼や地域活性化を初めから目指したコンテンツ制作が始められております。本プロジェクトでは、既存の聖地巡礼とは一線を画し、聖地巡礼を含んだコンテンツに注目し、収益化を目指したツーリズムの実証実験をしていく予定です。

第四にアートとツーリズムをつなげるプロジェクトを推進していく予定です。本プロジェクトを推進していく手がかりとして、2024年7月に名古屋大学と金沢21世紀美術館との共催で開かれた、「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」というシンポジウムがあげられます。このシンポジウムのきっかけとなった開館20周年記念展覧会では、人間社会と自然が混淆することで生じた地球社会の生態系や文化状況を、アート作品の展示によって可視化するという挑戦的な試みがなされました。本プロジェクでは、日本の伝統や文化を、ダンス、歌、絵画など様々な表現形式を通じてアートとして表現し、そこにツーリズムを掛け合わせたアート・ツーリズムを新たに開発し、社会実装していく予定です。より具体的には、人間、社会、自然の来歴を辿り直し、未来を構想するだけではなく、それらをアートとして実際に表現し、考えるということを基軸にしたツーリズムを開発し、社会実装していく予定です。

本プロジェクトに関しては、日本の伝統文化に関しては吉田、日本遺産を基軸としたツーリズム開発は桑田、コンテンツ産業とツーリズムに関しては宮尾と岡本、アート・ツーリズムに関しては松嶋と金がパイロット調査を進めています。以上のように、本プロジェクトは、日本の各地域が育む我が国固有の伝統文化を基盤としたツーリズムを、産学連携を通じて収益化を目指し、社会実装するための実証実験に着手する挑戦的な試みのプロジェクトであると考えております。