日本の森林資源を核としたオルタナティブ・ツーリズムの戦略的展開:森林経営と観光経営の融合による地域創生への接近
メンバー:四方邦宗(神戸大学 研究員)、桑田敬太郎(大阪産業大学)、松嶋登(神戸大学)
1. プロジェクトの背景と目的
現代の観光は、従来の大量消費型の「マスツーリズム」から、地域の自然、社会、価値観と調和し、旅行者と地域住民の双方が持続的な価値を享受し合える「オルタナティブ・ツーリズム」へとパラダイムシフトを遂げています。我が国は国土面積の3分の2を森林が占める世界的な森林大国であり、これらの豊かな森林資源は、単なる自然景観にとどまらず、地域のライフスタイルの再構築や、体験型コンテンツを通じた観光資源化への極めて高い可能性を秘めています。
しかし、地方の森林環境は、少子高齢化に伴う担い手不足や、それに伴う里山・林道の荒廃、獣害問題などの深刻な社会課題に直面しています。本プロジェクトは、当センターが目指す「最先端の調査研究」「Research Based Education」「研究教育成果の社会実装」の三位一体のアプローチに基づき、これまで未活用、あるいは課題を抱えていた森林資源を「観光経営学」の視点から捉え直します。そして、観光客の自己変革ニーズを満たしながら、無意識的・意識的に地域の課題解決や環境保全に貢献する新たなオルタナティブ・ツーリズム(特にグリーンツーリズム、アドベンチャーツーリズム)のモデルを探索的に研究・開発し、持続可能な地域創生の実現を目指します。
2. 主な研究対象地と取り組み内容
本プロジェクトでは、森林資源の活用アプローチが異なる特徴的な3つの地域をフィールドとして設定し、経営学的な資源ベース戦略論やイノベーション理論を援用した比較事例研究および実証実験を行います。
① 長野県信濃町:森林サービス(森林セラピー等)を活用したヘルスケア・グリーンツーリズム
内容:豊かな森林環境を活かした森林セラピーやウェルネスプログラムなど、「森林サービス」の先進地である信濃町を対象とします。単なる一時的な物見遊山の観光ではなく、リピート性の高い滞在型余暇活動(グリーンツーリズム)としてのビジネスモデルを分析します。心理的・身体的付加価値を可視化し、都市部の人材や企業(ワーケーション・研修需要)を誘引する観光経営戦略を模索します。
② 山梨県「山守人(やまもりびと)」:マウンテンバイク(MTB)を活用したアドベンチャーツーリズムと山林保全
内容:MTBをはじめとするアクティビティを通じて山林の新たな価値を創造している「山守人」の取り組みを研究します。MTBツーリズムは、一見単なるアクティビティに見えますが、コース開拓や維持のために林道を整備・再生するプロセスそのものが、放置林の解消や里山保全に大きく貢献しています。アクティビティの楽しさが無意識的に地域創生や環境保全へとつながる「アドベンチャーツーリズムの好循環モデル」を経営学的に体系化します。
③ 長野県御岳(おんたけ):閉山スキー場の再開始による持続可能なマウンテンリゾート経営
内容:気候変動やスキー人口の減少によって閉鎖された旧スキー場周辺の再開発・再開始プロジェクトを対象とします。冬一辺倒の索道ビジネスから脱却し、四季を通じて森林を楽しめるオールシーズン型のアドベンチャーツーリズム拠点への転換プロセスを追います。地域住民や行政、民間事業者が連携するガバナンス体制や、再投資を可能にする収益化の仕組みを検証します。
3. 研究計画および体制
本プロジェクトに関しては、長野県信濃町における森林サービスおよびワーケーションを活用したヘルスケア・ツーリズム開発については、四方・松嶋、山梨県「山守人」におけるマウンテンバイク(MTB)などのアクティビティを通じた山林保全と観光を両立させるアドベンチャーツーリズムのシステム構築については、四方・松嶋、長野県御岳における閉山スキー場の再開始およびオールシーズン型マウンテンリゾートのガバナンスと経営戦略に関しては、桑田・四方がそれぞれパイロット調査を進めています。
以上のように、本プロジェクトは、日本の各地域が有する豊かな森林資源を基盤としたオルタナティブ・ツーリズムを、産学連携を通じて収益化(ビジネスモデル化)し、地域の環境保全と経済活動が自律的に循環する仕組みを社会実装するための実証実験に着手する、挑戦的な試みのプロジェクトであると考えております。
