【このサイトはスマートフォン対応ではありません】
かつて就職人気ランキングのトップを占め、優良業種といわれた銀行は、今や厳しい状況に置かれている。人口減少に伴う経済規模縮小、大規模金融緩和に伴う金利低下等により金利収入は大幅に減少し、新しい金融情報通信技術(フィンテック)を用いたスタートアップ企業にサービスを侵食されている。銀行業務は分解(アンバンドル)し、各サービスを効率的に提供する業者を通じて利用すればよいというBaaS(Banking as a Service)の考え方が示され、既存銀行のビジネスモデルは時代遅れといわれる。しかし他方でフィンテック登場のずっと前から、銀行は絶えず技術革新に伴う類似・代替サービスの挑戦を受けてきた。それにも関わらず銀行は依然として大きな経済的役割を果たしている。既存の銀行が未来永劫同じ形で存続しないとしても、銀行が提供する機能は今後も必要なのではないだろうか。銀行の将来像を明らかにすることは、日本の金融システム、ひいては日本経済のパフォーマンスを考える上でも重要である。
こうした問題意識の下で、本研究では危機をあおるような論調に与するのではなく、時代時代でもてはやされる実践知や経験知ではなく、長年にわたって蓄積され一般化された学知に基づき、冷静かつ中長期的に、学術的視点からこれからの銀行の在り方を検討する。
以上の問題意識を背景に、本研究では銀行機能に関する理論研究を土台とし、また銀行法に関する法学分野の知見を踏まえ、現代および近代の銀行データを用いた実証研究を行う。こうした研究からこれからの銀行制度の在り方に関する含意を得ることで、今後銀行が果たすべき経済的機能は何か、その機能を発揮するために今後の銀行制度はどうあるべきか、という問いに答えることが、本研究の目的である。
本研究は、研究初年度に準備的作業を開始した後、2年目以降順次実証分析を実施する。準備は[1]銀行理論の再整理、[2]現代・近代銀行制度の確認と現行法の不備の検討、[3]現代・近代のデータ整備に分かれ、実証分析は[4]現代銀行に関する実証分析と[5]近代銀行に関する実証分析に分かれる。得られた結果は検討を行い、[6]経済的・法的観点を踏まえた示唆の導出を行う。
内田(2020,金融庁ワーキングペーパー)を出発点とし、同論文における理論的整理を再検討して研究の理論的基盤を共有し、また同論文の試論的整理を改善する。
銀行条例、旧銀行法、新銀行法を中心とする現代・近代の銀行制度を確認するとともに、フィンテック企業の台頭や銀商分離問題などにより現行制度が直面している問題、現行法の不備について、法学の立場から検討する。