研究プロジェクト概要・計画
研究プロジェクト内容
アジア地域を含む低炭素型サプライチェーンの構築と制度化に関する研究については、本研究の基礎的データベースとして、アジアへの展開を念頭に、日本を対象にして産業連関分析に基づいたインベントリデータベースの開発を行う。基本分類400部門の温室効果ガス、大気汚染物質、水を中心としたデータベースの開発を目指す。環境会計データと環境負荷データの関連性について基礎調査を行う。
MFCAをサプライチェーンへ適用するために克服しなければならない技術的課題を抽出し、アジアへの展開を念頭にその解決策を研究する。日本の生産拠点工場及び日本でMFCAを導入している企業それぞれに対して、質問票調査及びインタビュー調査を実施し、サプライチェーンへのMFCAの導入時の課題を抽出する。調査先には、中国・韓国などのアジア諸国も含める。さらに欧州を含むMFCA成功事例を分析して、課題の解決方法を研究する。
低炭素型サプライチェーンをアジアを含む地域で構築するための現状を分析し課題を整理する。管理システム面について質問票調査を実施して課題を抽出する。サプライチェーンにおける企業連携の意義と情報共有・開示について分析するとともに、消費者の視点からの評価の現状も含めて検討する。さらに、環境に配慮したサプライチェーンマネジメントのケースについても調査研究を行う。
①研究開発背景
低炭素社会を実現するためのこれまでの研究や政策の対象は企業や製品及び技術が中心で、複数の企業間にわたる製造プロセスのサプライチェーンを対象とする低炭素化のための活動や政策は、物流関係の部分的な取り組み等を除いて、これまで十分に展開されてこなかった。一企業では低炭素化を実現しても、それが原因でサプライチェーンの上流もしくは下流でCO2排出量を増加させている事例は多数あり、2020年の温室効果ガス排出量25%削減へ向けて「ものづくりの低炭素化社会」を実現するためには、企業単位だけでなく、サプライチェーン全体で効果を上げるような活動・政策への転換がきわめて重要である。
また、日本企業のサプライチェーンは中国を中心とするアジア諸国と密接に結びついており、アジア地域を含むサプライチェーン全体の低炭素化は、世界的な温室効果ガス削減のために不可避の課題である。世界的なカーボンマネジメントの動向を見ても、カーボンフットプリントやGHGプロトコルスコープ3のようい、サプライチェーン単位のマネジメント手法の構築・整備が急ピッチで進められており、この方面での対策が必要である。しかし、これらのカーボンマネジメントの手法はCO2排出量の測定を中心にしており、企業現場での改善活動を支援するものではないで、企業へ導入するためには、経営活動を支援する手法として再構築する必要がある。
本研究プロジェクトは、上記のような研究背景を前提として、アジア地域を含むサプライチェーンを低炭素型にするための評価手法を開発して、それを活用した低炭素型サプライチェーンの制度化の道筋を研究するものである。
②研究開発目的
本研究は、サプライチェーンを低炭素化するために必要なサプライチェーンの環境負荷の測定・評価技術を開発して、低炭素型サプライチェーンをアジア諸国を含む地域で制度化するための方法を研究することを目的とする。具体的には、3つのサブテーマを設定して、本研究目的に取り組んでいる。
(1)「アジア諸国へのインベントリデータベースと環境負荷測定手法の開発」(サブテーマ1)
サプライチェーンの低炭素化を評価するためのLCA用インベントリデータベースの開発を目的とする。日本だけでなく、アジア諸国も対象に含め、温室効果ガスを中心として水等の重要な環境負荷も含むデータベースの構築を目指す。また、会計データに基づく簡易型の環境負荷量測定方法も考案し、実用面での有効性にも配慮できる方法を検討する。
(2)「低炭素型サプライチェーン評価システムの開発」(サブテーマ2)
マテリアルフローコスト会計(MFCA)をサプライチェーンへ適用することによって、低炭素型サプライチェーンを評価し、その活動を促進するマネジメントの仕組みを研究することを目的とする。日本及びアジア諸国で導入可能かつ有効な評価モデルをマネジメントツールとして開発することを目指す。
(3)「低炭素型サプライチェーンの制度化とアジア地域を含めた普及方策の研究」
(サブテーマ3)
低炭素型サプライチェーンをアジア諸国を含む地域で制度化するための諸方策の研究を総合的に行うことを目的とし、経営管理システム、サプライチェーンでの情報共有・開示手法の開発、消費者・行政支援の可能性、環境配慮型(低炭素型)サプライチェーンの先端的な事例研究を行うことを目的とする。
③研究開発方法
(1)「アジア諸国へのインベントリデータベースと環境負荷測定手法の開発」(サブテーマ1)
産業関連分析法に基づいたインベントリデータベースの開発のために、温室効果ガス、大気汚染物質、水についてデータ収集・分析に着手・実行し、比較的統計資料が揃っている日本を対象にした水インベントリデータシステムの開発を行った。また、アジアの産業連関データベースの展開の基礎として、アジア国際産業連関表及びIEA-OECD統計を用いたアジアデータベースの調査を行った。さらに具体的な中国エネルギー統計データ及び産業連関表を用いて中国のCO2データベースの作成を行った。これにより次年度以降に実施予定のアジア各国の温室効果ガス、大気汚染物質、水などのデータベースの作成手法を確立することを目指した。さらに、データベースが使用可能になった場合を想定して、アジア各国のインベントリデータベースによる低炭素型サプライチェーン設計への適用方法の検討及び会計データの収集分析と環境負荷量との関連分析を行った。
(2)「低炭素型サプライチェーン評価システムの開発」(サブテーマ2)
今年度の研究は、①日本でMFCAを導入している企業に対するインタビュー調査と、これまで公表されている文献資料の研究調査によって、MFCAをサプライチェーンへ適用するために克服しなければならない技術的課題を抽出し、アジアへの展開を念頭にその解決策を研究すること、②サプライチェーンへMFCAを導入する上で前提となるサプライチェーンの実態を明らかにするために、日本の上場企業への質問票を実施すること、③アジアでの低炭素型サプライチェーンを目的とすることから、マレーシア・ベトナム・中国などのアジア諸国でのMFCAの事例ならびにサプライチェーンの実態に関して調査し、さらにドイツでのMFCAの研究動向を調査し、今後の共同研究を検討することであった。
(3)「低炭素型サプライチェーンの制度化とアジア地域を含めた普及方策の研究」
(サブテーマ3)
低炭素型サプライチェーンをアジアを含む地域で構築するための現状について分析課題を整理することを目的とし、①サプライチェーンの管理システム面の研究、②サプライチェーンにおける企業連携及び情報共有・開示の研究、③低炭素型サプライチェーンを支援する消費者の役割に関する研究、④環境に配慮したサプライチェーンマネジメントのケース研究の4つを中心に行った。