基本理念

神戸大学経営学研究科・経営学部は、日本における経営学・商学の中核的研究教育拠点(COE)として、「学理と実際の調和」という建学の理念の下、神戸高等商業学校の伝統ある系譜を汲み、産学連携をとりわけ強く意識しつつ産業界をリードする人材の養成を手がけてきました。経営学という学問領域の特性もあり、研究者は企業等での最先端の事象を取り入れ実証研究を行い、産業界はその研究成果を企業活動に活用できるというように両者が一体化され、運用される工夫が着実に積み重ねられてきました。こうした学界と産業界の連携は、本研究科の目指す産業社会との相互協力と相互批判を通じて研究を進め、その成果を学内外で教育するとともに社会還元していくという「オープン・アカデミズム」という理念によって端的に表現されています。また、本研究科の教育活動は、研究科に蓄積された教員個々の研究活動の成果を学問的・理論的基礎とする「研究に基礎を置く教育(Research-based Education)」を基本としています。

教育面での強み・特色

【学士課程】

経営学特別学修プログラム

経営学特別学修プログラムは、1年第2クォーターから2年時修了までの1年半にわたり、経営学部一般講義とは別に、特別な少人数演習教育を行うもので、平成28年(2016)度からスタートしました。このプログラムは、神戸大学経営学部での経営学の学修成果を、講義で学んで「経営学を知っている」から、「経営学で経営が分かる」へ高めるために、特別な少人数演習教育を行うもので、「経営学入門演習」、「経営の理論と実践」、「経営の理論分析」の3種類の講義から構成されています。

経営学特別学修プログラム

会計プロフェッショナル育成プログラム

在学中の公認会計士第2次試験または税理士試験合格を目指すとともに、職業会計人に要求される高度専門知識の習得を目的として開設しました。開設以来、公認会計士合格者数は定常的に全国10位内にあります。

大学別合格者ランキング上位10大学

大学別合格者ランキング上位10大学

Kobe International Business Education and Research(KIBER)/ Kobe International Management Education and Research Accelerated Program (KIMERA)プログラム

KIBERプログラムは、国際社会と文化を理解した、グローバルな社会環境で活躍できる経営人材を育成することを目的として平成23年(2011)年度に開始したプログラムで、交流協定を活用した1年間の留学と留学時に必要な英語でのコミュニケーションスキルについての授業(すべて英語で実施)を追加しつつ、4年間で学部を卒業できるようカリキュラムを整備しています(交換提携校は令和3年度で世界25大学)。

また、KIMERAプログラムは、学部の2年生からKIBERプログラムに属して、3年生の後期から1年間、海外パートナー・スクールへ留学し、早期修了に必要な単位を修得して、3年半で学部を卒業し、その直後に、すべて英語で提供されているGMAP in Management – SESAMI Program(大学院)に秋入学して、1年半で修士号を取得するプログラムです。合計5年間で経営学の学士号と修士号を取得します。経営分野でグローバルな高度専門職人材を育成することがKIMERAプログラムの目的です。

ダブルディグリープログラム

ダブルディグリー(複数学位)とは、連携先の大学との相互認定により、一定の期間中に両大学の学位を取得できる制度です。経営学研究科では、現在、シェフィールド大学(英国)と、ダブルディグリープログラムに関する協定を締結しています。

【博士課程】

体系的コースワーク

博士課程の前期課程では、研究者としての基礎的な知識を修得するための第1群科目(特論)、体系的な研究に不可欠な方法論を修得するための第2群科目(方法論研究)、基礎科目である第1群から更に進んだ内容や分野横断的な内容、先端的な研究成果について講義を行う第3群科目(特殊研究)及び研究論文(修士論文)の作成指導を行う第6群科目(演習)を中心とするコースワークによる体系的な教育を行っています。学生にはカリキュラムの特性を十分に理解し、適切に科目履修できるよう、10の代表的な研究分野について標準的な履修モデルを提示しています。

達成すべき能力の段階的評価

経営学研究科ではわが国における経営学系研究者の養成を重要な目的としていることから、研究者希望の学生に対しては基本的に前期課程(2年)と後期課程(3年)の5年一貫教育プログラムを構成し、段階的にその能力を確認する仕組みを整えています。前期課程の修了に必要な単位を修得しただけでは後期課程への進学は認められず、第1群科目と第2群科目に対応した「総合学力試験」と呼ばれる試験に合格する必要があります。これは、学生が単位修得によって得た学力を、更に博士論文作成のために必要な水準にまで拡張する能力をもっているかどうかを判定するためで、従って単位修得のための試験よりも若干難易度が高めに設定されています。また、後期課程においては、論文作成セミナー、博士候補者資格論文の作成、博士候補者ワークショップ、博士論文発表会、博士論文仮審査という段階を設定し、これらの仕組みにより、本学で学位を取得される方の質が保証されています。

博士課程のカリキュラムマップ

Strategic Entrepreneurship and Sustainability Alliance Management Initiatives (SESAMI)プログラム

共生の経営学(Sustainability Alliance Management)と創造の経営学(Strategic Entrepreneurship)が融合した戦略的共創経営という研究教育領域を定義し、新規事業を「創造」し、かつ「共生」を推進する能力を兼ね備えた戦略的経営の専門家(戦略的共創経営人材)を養成することを目的として平成25(2013)年度から開始したプログラムです。海外のジビネス系スクールの教員を多数招へいし、すべての授業を英語にて実施するとともに、国際展開企業と連携した実践的課題解決能力を育成するプロジェクト研究や海外大学と連携した海外実習等を通じて、実践に即した理論構築能力を養成しています。

研究者養成の実績

神戸大学大学院経営学研究科で学位等を取得し、大学の研究者となっている者は多数に及んでおり、特に、経営学の諸分野における人材の輩出率は全国トップ水準にあります。

国立大学研究者の出身大学院別比率(最終学歴、学位取得先)

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地域別比較(神戸大学経営学研究科と一橋商学研究科の比較)

(research mapより作成)

【専門職学位課程】

働きながら学ぶ

経営学研究科では、全国の国立大学に先駆けて、平成元(1989)年度から社会人MBAプログラムを提供しており、平成15(2003)年度の専門職学位課程制度開始時から新たな学位課程として教育を実施しています。本プログラムでは、「働きながら学ぶ」、「研究に基礎をおく教育」、「プロジェクト方式」を特徴としており、企業等に現に働いていることを条件としています。「働きながら学ぶ」ことのメリットは、具体的な職場の問題を学術の分野に持ち込むことで、理論を応用しながらより深く考えられることにあります。また、多忙な社会人のニーズに応え、金曜日夜間と土曜日だけで1年半で修了することができるよう設計されています。金曜日の夜間は大阪都心部の梅田にあるサテライトオフィス「梅田インテリジェントラボラトリ」にて講義を行い、時間的余裕の少ない社会人に配慮しています。

プロジェクト方式

「プロジェクト方式」は経営学研究科がMBAプログラム創設以来25 年以上かけて編み出してきた教育方法で、産業界で解決すべき課題について、5ないし6名の学生からなるプロジェクトチームを編成し、学生相互間及び教授陣・学生間でお互いに知恵を出し合いながら、共同研究により解決策を探求するものです。異業種・異なる世代の学生同士によるディスカッションを通じて多様な視点、説得の技法など、理論と実務を融合させ専門知識を深化させ、適切な判断を下せる能力を磨く仕組みが取り入れられています。

講義課目の抜本的改革

神戸大学MBAでは、広く社会にMBAの価値を社会に伝えるため施策の一環として、文部科学省からの委託を受けてビジネス系大学院にとって共通的となるコアカリキュラム体系の在り方を検討し、全国のビジネス系大学院にそのモデルを提示しています。神戸大学MBA では「ヒト」「モノ」「カネ」という経営の基本的要素を中心にコアとなる5科目を配置し、これに先に説明したプロジェクト科目とその他の専門科目(トピックスや最先端研究成果科目)を加えたカリキュラムを展開しています。また、提示しているモデルでは、授業において使用するテキストの指定(海外トップクラスMBA と同様のテキスト)、ケーススタディで取り扱う企業(国際展開企業中心)も明示し、科目名称の羅列ではなく、実効性のあるクオリティ・コントロールにまで言及している点が大きな特徴です。

短期集中相互研修プログラム(Reciprocal Study Tour:RST)

グローバルな観点から新規の多様な経営上の問題を把握できる人材の養成を目的として、英国のクランフィールド大学への短期交換研修制度を整備しています。この研修は「日英産業事情応用研究」として単位認定もされるもので、毎年6月にクランフィールド大学のMBA 生が訪日し、神戸大学MBA 生と共に神戸大学で講義の受講、日本企業の訪問、日本文化体験等を行い、翌年2月に神戸大学MBA生が訪英し、クランフィールド大学で講義の受講、英国企業の訪問、英国文化体験等を行います。これまで参加者から高い評価を得ているプログラムです。

論文賞や優秀賞による顕彰

平成20(2008)年度より本研究科名誉教授の名を冠した「加護野忠男論文賞」を創設し、優れた論文を顕彰しています。本賞の創設により修士論文に学生が意欲をもって取り組むよう後押しするともに、授賞式に次年度の入学生も参加できる仕組みにすることで、入学後自分たちがどのようなレベルに到達しなければならないかを学ぶ機会にもなっています。

平成29(2017)年度より始まったカリキュラムのもとで、コア科目5教科で全て優以上の学生は優秀MBA賞として、2つのプロジェクト研究でそれぞれ3位以内に入賞し、修士論文がゼミ内上位2位の学生は三冠王として表彰しています。令和2年度は、三冠王として1名の学生が表彰されました。

研究面での強み・特色

研究拠点としての強み

経営学研究科は、日本の経営学・会計学・商学(以下、経営学と総称します)の中核的研究拠点としての長い歴史を今も紡ぎ続けています。特に、経営戦略、経営管理、人的資源管理、財務会計、管理会計、社会会計、マーケティング、ファイナンス、交通などの経営学の主要領域において国内でトップといえる研究陣を擁しており、さらに環境会計・経営、アントレプレナーシップ、サプライチェーン、コーポレートガバナンスなどESG(Environmental, Social, Governance)規準やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)などの時代の要求に合った研究も多く進めています。

また、研究科内に、創業金融研究センターや事業創造&地方創生センターが設置され、事業創造や地方創生に関する研究にも取り組んでいます。経営学研究科はこれらの研究力を活かして、海外の優れた大学や研究機関との連携・交流を促進し、経営学の研究教育のグローバルレベルの中核的拠点を目指しています。さらに、社会科学系分野の学際的研究を行う社会システムイノベーションセンターを活用し、社会システムイノベーションを通じて社会課題の解決に貢献する文理融合研究に参画しています。また、科学技術イノベーションとの密接な連携のもと「戦略的企業家のためのアントレプレナーシップ・カリキュラム」などの取り組みを通して「学理と実際の調和」にも具現化にも努めています。また、経営学研究科の優れた研究力は、いくつかの指標からも伺い出来ることができます

論文数等の推移

社会科学の1つである経営学の研究は、自然科学と比べると概念や理論、研究方法が多様で説明が多く必要となり、また研究対象も多くの要因が複雑に絡み合っているため、論文の記述が長くなり、1本の論文を仕上げるのに時間がかかる傾向があります。また、多くの著作が単著であることも特徴です。経営学研究科には約60名の研究者が配置されていますが、平均で一人年間3~4件の研究業績を継続的に出しているということは、研究領域の特徴を考慮すれば十分だといえるでしょう。

研究実績(論文数・著書数・学会発表数)の推移

  2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
論文数 143 117 113 123 114
著書数 20 20 15 11 18
研究発表数 67 88 70 65 18
合計 230 225 198 199 150

科研費の獲得

また、経営学研究科の研究力の強さは、下記の科学研究費補助金(以下、科研費)等の外部資金の獲得状況からも見ることができます。科研費の新規の採択率は、神戸大学全体と比較して高い水準にあるほか、研究分野ごとに見ても、全国トップクラスを維持しています。

科研費の採択状況(神戸大学全学、経営学研究科)

中区分別採択件数上位10機関(過去3年間の新規採択の累計数)
経済学、経営学およびその関連分野

順位 機関名 順位 機関名
1 早稲田大学 大阪大学
2 神戸大学 法政大学
3 一橋大学 立命館大学
4 東京大学 9 京都大学
5 慶應義塾大学 10 中央大学、関西大学

学会役員・編集委員等

経営学研究科の研究力の強さは、下記のように、国内学会における役員や学会誌の編集委員を務めている数にも現れています。おおよそ、教員一人当たり平均1件の学会役員を務め、学会のリーダー的役割を果たしているといえます。

学会の役員等の状況

役職(2021年5月現在) 人数
学会会長・副会長 6
学会常任理事・理事・評議員・監事・顧問 44
学会幹事・事務局長等 12
小計 62
学会誌編集委員 38
合計 100

社会貢献の状況

経営学研究科は、大学としての主体性・自律性を保ちながら、教育研究活動において産業界との相互交流を促進し、批判、研鑽しあい、アカデミズムと産業界がともに発展し、その研究成果を、学内・学外における教育活動のみならず、広く社会一般に公開しています。その典型的なものは「神戸大学MBA 公開セミナー」ですが、その他にも、学界人・ビジネスパーソンを構成員としているNPO 法人現代経営学研究所(RIAM)との共催によるシンポジウムやワークショップを年に5、6 回開催するなど情報発信に努めています。

研究の成果は、産業界や社会一般のほかに公的機関にも広く還元されており、大きな貢献を果たしています。具体的には、国や地方公共団体の各種委員会や国家試験関係の委員会、政府系研究機関の研究会等に参加している教員が増えています。

各種委員会への参加人数

H26 H27 H28 H29 H30 R1 R2
教員数 61 61 57 54 53 55 55
委員委嘱件数 48 45 52 45 54 52 40
(国) (24) (18) (27) (32) (31) (24) (28)
(地方公共団体) (24) (27) (25) (13) (23) (28) (12)
教員10人当たり委嘱件数 7.9 7.3 9.1 8.3 10.2 9.5 7.3

 

また、研究の成果や蓄積した知見を基にした主張や発言は、新聞・雑誌等のメディアにおいて、多数取り上げられています。そのほか、経営学部・経営学研究科の卒業生は、学界に留まらず政治・経済の多方面で活躍しています。

アドバイザリー・ボードについて

神戸大学大学院経営学研究科では、平成14年4月に、経営管理に関する高度専門職業人(経営のプロフェッショナル)の養成を目的とした「専門大学院」が設置されたことを契機として、社会人大学院教育を含めた経営学研究科全体の研究・教育および社会連携の諸活動について、有識者の方々から、大所高所の観点からさまざまなアドバイスをいただくために「アドバイザリー・ボード」を設置しています。現在まで合計18回の「アドバイザリー・ボード会合」が開催され、毎回、活発な意見交換等が行われています。

財政状況

経営学研究科の共通予算の収入は、教育研究基盤経費(既定経費)(以下「既定経費」という。)と外部資金の獲得に伴う間接経費です。そのうち、既定経費については、配分額が年々削減されているため、募集要項・学生便覧等印刷物のPDF化、新聞購読の取り止め等、管理経費の削減を行ってきました。しかし、年々既定経費の配分額が少なくなり、これらの削減だけでは収支の不足を解消できないため、個人研究費をはじめ研究費を削減せざるを得ない状況となっています。

予算額の推移(教育研究基盤経費(既定経費)、間接経費)と個人研究費 (千円)
  H27年度 H28年度 H29年度 H30年度 R1年度 R2年度
教育研究基盤経費(既定経費) 159,437 143,266 135,129 134,604 132,114 129,664
間接経費※ 10,275 12,620 12,022 13,249 12,001 13,440
個人研究費の配分額 500 350 300 300 300 300

※ 分担金送金に伴う間接経費学外送金分除いた額

運営費交付金のうち、今まで多く配分されてきた機能強化経費は、第3期中期目標期間(令和3年度まで)で終了し、第4期中期目標期間以降は先が見通せない状況です。既定経費が年々削減されていることから、経営学研究科共通予算からの研究費の配分は、年々きびしくなっていきます。研究活動を継続していくためには、今後、外部資金の獲得がますます重要になってきます。

予算額の推移(競争的資金) (千円)
H27年度 H28年度 H29年度 H30年度 R1年度 R2年度
科学研究費補助金 件数 53 51 48 53 46 48
金額 108,620 128,083 123,937 135,590 120,780 143,190
科研以外の外部資金 金額 88,310 55,709 35,655 37,513 35,162 39,350
機能強化経費 金額 44,686 41,126 46,976 48,687 44,409

※ 機能強化経費は文科省・学内配分含む

その他外部資金(共同研究、受託研究、その他)の推移 (千円)
H27年度 H28年度 H29年度 H30年度 R1年度 R2年度
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
47 21,543 40 55,708 34 35,655 33 37,513 51 35,162 28 39,350