修了生の声:服部泰宏さん

1.プロフィールと卒業後の進路

みなさんはじめまして。服部泰宏と申します。もともとは神奈川県最西端の南足柄市の出身ですが、学部時代からかぞえて関西での生活は12年になります。学部時代は関西学院大学経済学部でミクロ経済学を専攻し、2004年に神戸大学大学院経営学研究科(マネジメント・システム専攻)へと進学しました。大学院時代は金井壽宏教授のゼミナールに所属、博士課程前期課程および博士課程後期課程を修了し、2009年に博士(経営学)の学位を取得。その後、現在の職場である滋賀大学経済学部に就職をいたしました。

2.なぜ神戸大学大学院経営学研究科への進学を選択されましたか?

私と神戸大学(そして、経営学)との出会いは、私の師との出会いそのものだったといえます。学部生時代、私は自分が責任者として活動していた学生ベンチャーを潰すという苦い経験をしています。(詳しくは書きませんが)20歳そこそこの私にとってはそれなりに大きな挫折だったわけですが、そこで学んだのは、組織や集団は必ず劣化するということ、したがってマネジメントやリーダーシップの役割が極めて重要であるということでした。そんな反省の念があったのでしょうか、大学3回生のある日、図書館ではじめて経営学の棚の前に立ち、何気なく一冊の本を手にしました。人生ではじめて手にとったその経営学の本が、私の師となる金井教授の著書『変革型ミドルの探求(白桃書房)』でした。なぜこの本を手に取ったのか?それはもう、偶然としか言いようがありません。

「クルーノー均衡」とか「コブ=ダグラス型生産関数」といったミクロ経済学的な世界こそが「科学」だと信じていた私にとって、「マネジメント」や「リーダーシップ」が科学の対象になるということそのものが、非常に驚きでした。その場に立ったまま、しばらく金井教授の書籍を読み続けてしまったことを覚えています(ついでにいうと、この本が図書館のどのフロアのどの棚に置いてあったのかということまで、今でもはっきりと覚えています)。

3.在学中、特に印象的な授業や出来事はありましたか?

私はいまでも、神戸大学での5年間が、人生で最も苦しくかつ充実していた時間であったと思っています。エピソードには事欠かないわけですが、そんな中でも、いかにも神戸大学らしいお話を1つ紹介させていただきます。それは博士後期課程の1年目のある日、私の副指導教員である鈴木竜太准教授から長時間にわたるご指導をいただいた後のことでした。共同研究室への帰り道、ふと立ち寄った自動販売機の前で、同じゼミナールの先輩と偶然お会いしたのです。何気なく、鈴木竜太准教授からいただいたコメントについてお話しすると、その先輩は「僕はこう思うけど・・・」とはじまり、ここでもまたディスカッションに巻き込まれてしまいました。すでに鈴木竜太准教授のお部屋で2時間ほどのディスカッションを終え、私の頭はすでに限界をむかえていたのですが、先輩とのディスカッションはそこから2時間は続いたと記憶しています。ようやく解放(?)され、へとへとに疲れて共同研究室に帰った私に追い打ちをかけるように、待ち構えていた同期の仲間達が・・・・・その日3度目のディスカッションが始まったのでした。

すこし大げさな描写だと思われるかもしませんが、神戸大学においてはごく当たり前の風景なのです。教室や研究室はもちろん、廊下や階段や自動販売機の前、いたるところに学びに飢えた人たちの議論があり、学びの機会があります。この雰囲気は、何ものにも代えがたいと思います。

4.神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

1つは、知的な意味で謙虚になったことでしょうか。神戸大学の門を叩いた時、自分の能力に関して、私はそれなりに自信をもっていました。しかしその自信は、神戸大学に入学して間もなく、もろくも崩れ去ることになりました。そこには、自分よりもはるかに頭が良くて、しかも自分よりもはるかに努力をしている人が沢山いることを知ったのです。そして、ひとたび講義やゼミナールに参加すると、経営学の偉大な先人たちの仕事の山の上に、たった1つの自分の「オリジナル」を積み上げることがどれほど難しいことか、嫌というほど思い知らされたのでした。知識に対して謙虚になること、神戸大学に入学してわずか数週間のうちに私はそれを学びました(多大な努力によって自分の小さな「オリジナル」を積み上げることに、喜びと誇りを感じられるようになったのは、もうすこしあとのことでした)。

そしてもう1つは、一生ものの仲間を得たことです。神戸大学には、経営学の最先端を学ぼうと、世界中から学生が集まってきます。私もここで多くの仲間と出会いました。いまや日本中の大学・企業で活躍している彼らとは、いまでも定期的に連絡を取り、お互いの仕事ぶりを報告しあっています。彼らはいまもなお、私の仲間であり良きライバルでありつづけています。人生において、「気の置けない」「一緒にいて楽しい」仲間が大切であることはいうまでもありませんが、同じくらい、(良い意味で)緊張感のある仲間というのも、人生において必要だとつくづく思います。

5.これから受験を考えている皆さんへのアドバイスをお願いします。

本気で学びたい方へ。どうせならホンモノに触れてください。ホンモノのワインと普通のワインの「利き分け」ができる人は、早い段階からホンモノのワインだけを飲み続けてきた人だといいます。では、ホンモノだけを飲み続けるためにはどうすればよいか?いうまでもなく、ホンモノを知っている人に教えてもらうしかないのです。私は、研究も同じだと思います。優れた研究者になるためのおそらく唯一の方法は、一流の研究者の下で、一流の仕事を見続けること、そしてそのやり方を「盗む」ことしかないと思います。神戸大学には、一流/ホンモノの先生方が「わんさか」おられます。ここへきて、是非、一流の仕事に触れてください。

前の記事

修了生:大牧宏彰さん

次の記事

修了生:北田皓嗣さん