伊賀隆賞、第12回が授与されました
伊賀隆賞は、1971年から1990年の19年にわたり神戸大学経営学部経営数学講座の教授として経営数学分野の教育研究に尽力された伊賀隆先生を記念し、神戸大学大学院経営学研究科において経営の数理・数量的研究の分野で優れた研究成果をあげた学生を表彰するものです。伊賀隆先生が2013年2月に亡くなられたおりにご遺族から神戸大学大学院経営学研究科の発展のためにとのご寄付がありましたので、一周忌にあたる2014年3月にこの賞を創設して、毎年課程博士号を授与される学生のうち賞の趣旨に該当する学生があれば1名を選んで表彰し、ご遺族の寄付を基金として副賞を贈呈することにしました。
第12回伊賀隆賞は、「Essays on Information Design and Strategic Information Transmission」の題目で、組織に関わる情報伝達問題と情報設計問題に関してゲーム理論に基づく優れた理論研究を行なった辻⽥智基さんに授与されました。あらゆる組織にとって、組織内外に偏在する情報をうまく活用し質の高い意思決定を行うことが重要です。これに関して、辻田さんは3つの独自の研究を行なっています。そのうちの1つは、組織内の意思決定者と情報保有者に完全な利害の一致がない場合に、情報伝達を促進させる工夫としてデフォルトアクションに注目にした研究です。意思決定者が情報伝達前に情報伝達後の意思決定の候補となるデフォルトアクションを決めておくことの有用性について論じており、情報伝達の結果次第ではあらかじめ定められたデフォルトアクションがとられるという事実が情報伝達をかなり促進させる可能性があることを示しています。さらに、興味深いことに、情報伝達の促進はデフォルトアクションの対抗馬となりうるアクションのありようを変えるので伝達が促進されればそれだけ望ましくなるとは限らないことが示されます。このことから最適なデフォルトアクションとはどのようなものかという興味深い問いにまで踏み込み詳細に分析しています。この他、組織内の情報の偏在自身を組織が設計するという観点に立つ情報設計問題の文脈において、その設計と組織内外で起こる情報収集や情報伝達との相互作用を論じた研究を行なっています。いずれの研究も厳密に分析を行なった高い水準の研究であり、組織に関わる情報伝達と情報設計に洞察を与えるよい研究といえます。
授与式は、2025年3月25日に神戸大学出光佐三記念六甲台講堂で行われた博士号授与式に引き続き、経営学研究科長室で行われました。神戸大学大学院経営学研究科は、経営の数理・数量的研究の分野の優れた教授陣を擁しており、これからもこの分野で優れた研究者を育成し、わが国の経営学の発展に寄与していこうと考えています。伊賀隆賞は、そのような将来有望な研究者に引き続き授与される予定です。

左から、國部克彦経営学研究科長、辻⽥智基さん、宮原泰之教授