会計と会計学の歴史

著者名 千葉準一 中野常男 責任編集
タイトル 会計と会計学の歴史
出版社 中央経済社 2012年4月
価格 5250円 税込

書評

本書は、『体系 現代会計学』(全12巻)のうちの第8巻として公刊された本です。会計学研究の現状を俯瞰するシリーズの一巻として、会計史がテーマとして取り上げられました。

国際会計基準(IFRS)の導入が喫緊の問題として議論される今、会計はまさに現在の問題であると考えられる方も多いでしょう。しかし、会計という行為自体は非常に長い歴史を持ち、古くは古代社会にも遡ることができます。そして、「会計は時代の鏡」という言葉もあるように、それぞれの時代の文化の発達の程度や社会的な要請に応じて会計は様々な姿をとり、様々な役割を果たしてきました。

本書は、複式簿記が生成したといわれる中世のイタリアを起点とし、現代のアメリカの財務会計基準審議会(FASB)の概念フレームワークが形成されるまでの会計・会計学の歴史をたどったものです。本書は長い会計の歴史のすべてを対象とするものではありませんが、会計の発展にとって主要な地域・時代を網羅しています。通読されると、様々な会計上の処理や概念、職業としての会計のルーツ等を知ることができるでしょう。

目次に沿う形で、本書が明らかにしている問題を説明します。まず、日本における会計史の研究の経緯と現状が示されます。続いて、経済の発展の中で、複式簿記という記録機構がいかに生まれ、また利益計算の方法がいかに変化していったのか、そして初期の株式会社ではどのような会計実務が行われていたのか、等の問題が複式簿記との関わりあいの観点から検討されます(第I部「近代会計前史」)。

株式会社の出現と普及は、会計の発展に大きな影響を与えました。株式会社は新たな会計上の問題を発生させ、会計に携わるものは様々な問題にその場で解答していく必要がありました。欧米諸国の株式会社の会計実務、そして会計に関する専門的知識を提供する職業専門家の出現、さらに問いに対して論理的な説明を与える会計理論の生成過程が問題となり、それぞれの章で検討されます(第II部「近代会計の黎明」)。

さらに、近代会計学の主要な舞台である20世紀のアメリカを対象として、詳細な分析が行われています。20世紀初頭に相次いで生まれた「ビッグ・ビジネス」が会計に与えた影響、そしてその後の会計原則の制度化、さらに会計制度の現代までの変遷が説明されます(第III部「近代会計の展開」)。

最後に、日本における会計の発展が概観されます。明治期の会計実務の検討が、三菱・日本郵船という当時を代表する企業を対象として行われます。また、日本の会計基準の構造を探るため、企業会計体制という観点から戦前期から現在に至る日本の企業会計を巡る制度の特徴が示されます(第IV部「日本における会計の発展」)。

本書は500ページ近い分量があり、読むには時間がかかるかもしれません。しかし、この厚さは、未知の問題に直面した各時代の会計人たちの努力の跡を反映したものでもあります。会計史研究の成果を総括したものとして、あるいは複式簿記生成以降の会計の歩みを知るための本として、本書が多くの人たちの会計の歴史に対する関心を引き起こす一助になれば幸いです。

    目次

     序章 「会計」の起源とわが国における会計史研究の展開と課題

    第Ⅰ部 近代会計前史
     第1章 複式簿記の生成・発展と「パチョーリ簿記論」への展開
     第2章 複式簿記の伝播と近代化
     第3章 株式会社の誕生と株式会社会計の起源

    第Ⅱ部 近代会計の黎明
     第4章 株式会社会計における財務報告の源流
     第5章 会社法制の萌芽と株式会社会計
     第6章 株式会社と会計専門職業の形成
     第7章 近代会計理論の生成

    第Ⅲ部 近代会計の展開
     第8章 ビッグ・ビジネスの台頭と大規模株式会社の会計
     第9章 会計原則の制定と取得原価主義会計の確立
     第10章 意思決定有用性アプローチの確立と概念フレームワークの形成

    第Ⅳ部 日本における会計の発展
     第11章 三菱簿記法制定以前の三菱の会計
     第12章 日本の会計基準と企業会計体制