どうやって社員が会社を変えたのか―企業変革ドキュメンタリー

著者名 柴田昌治 金井壽宏 著
タイトル どうやって社員が会社を変えたのか―企業変革ドキュメンタリー
出版社 日本経済新聞出版社 2013年1月
価格 1700円 税別

書評

組織行動論を学び研究する経営学者にとって、いちばん実践との関連で興味あるトピックが組織変革である。なかでも、わたしにとっては、リーダーシップ、モティベーションやキャリアの研究でも、変革を導くリーダーたちの調査研究や、変革の正念場、修羅場でもやり抜くひとのモティベーションの調査研究、さらに、変革型のリーダーがどのようなキャリア上の経験や薫陶を通じて育成されるのかという調査研究がいちばん興味深い。また、手閉塞状態からなかなか脱出できない日本企業、さらには、日本の産業社会にとって不可欠だと思われるのは、これらのテーマに、組織変革、組織開発を重ね合わせることだ。有用な研究調査は、個人、集団、組織、コミュニティ、そして社会が、いかにすれば変わっていくか、また、異なる分析単位の変化が相互にどう係わるのかのマルチレベル分析ということになるであろう。同時に、ひとりひとりが変わらないと、チームも会社も地域も変わらない。だから、いすゞの組織変革を素材に、内部者であったトップ(研究開発のリーダーを経て、社長経験者の稲生武さん)、同じく内部者であったミドル(人事、広報、人材育成の立場で変革の仕掛けを次々に導入した北村三郎さん)内部者の声と、その変革プロセスを変革のプロとしてともに駆け抜けた併走者(スコラで、独自の組織変革、組織開発の方法を開発された柴田昌治さん)の声から、なるドキュメントは貴重だと思われる。語り部の彼らの経験がもつ意味を、解きほぐすために、これからもわが国でますます重要になっていくであろう、組織開発や組織変革の視点から、変革劇に理論的な視点からコメントをさせていただくのがわたしの本書での役柄であった。しかし、いうまでもなく、本書の価値は変革の当事者たちの語りであることはいうまでもない。
組織行動論における、このマルチレベル分析の隆盛は、個人、集団、組織全体の変化を精緻に定量的に分析していくうえで、今後いっそう力を発揮していくであろうが、同時に、組織のなかに深く入り込んでそれを変えていくプロセスをデザインしたひとの活動や内省のドキュメント、また、その組織体の内部で、実際にその組織を変容させていった当事者たちの活動や内省のドキュメントも貴重である。本書に携わらせていただくことを通じて、わたしにはそのように思われた。
日頃、いろんな変革の立役者にお会いして、その変革ドラマにかかわるストーリーに、調査目的のアカデミックなインタビューの場や、『ビジネスインサイト』などの媒体のための経営者インタビューの場で、個人的に、あるいは共同研究者(あるいは、共同インタビュアー)とふれることもあれば、変革を導いたリーダーをゲストで研究会の場に招き、彼らのストーリーを(たとえば、神戸大学大学院経営学研究化の会合現代経営学研究所の会合)、神戸大学で開催される、わたしどもの所属学会(たとえば、経営行動科学学会や組織学会)の大会や部会などの場で、自らも変革を志向するミドルや若手もマネジェーに聞いてもらうこともある。そして、そのような議論の結果もできる限り、『ビジネスンサイト』などに記録として残すように心がけてはいる。
そのような中、独自の方法論で組織変革のコンサルティングをなさってきた柴田さんと、彼の組織変化経験でも最も印象深く、彼の会社スコラにとってもエポックとなったいすゞ自動の変革で中心的役割を担ったふたりの語り部に存分、今なら語れることを語っていただき、広く入手可能な一般書の形で、1冊の書籍にまとめることができた。自社の組織変革、それを支える方法について、考えるべきタイミングにきていると思っておられる方々にぜひお読みいただきたい。

    目次
    序  章 日本企業がわずらっている現代病
    第一章 なぜ会社は変われないのか
    第二章 大企業病を克服せよ
    第三章 社員が自ら考えて会社を変えていく
    第四章 驚異的成果を生むマネジメントの真髄
    終  章 人を幸せにする会社とは