Nuclear Disaster at Fukushima Daiichi
著者名 | Richard Hindmarsh 編集 原拓志(第2章)著 |
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タイトル | Nuclear Disaster at Fukushima Daiichi |
出版社 | Routledge 2013年4月 |
価格 | $ 130.00 |
書評
本書はオーストラリア、イギリス、アメリカ、シンガポール、チェコ、そして日本の科学技術社会論(STS)の研究者の共著による、福島第一原発事故をめぐる多角的かつ草分け的な論説集である。主な内容として、まず、日本における原子力開発の社会的・政治的な歴史や状況が示され、事故の背景が明らかにされる。また、災害発生後の対応の問題や、事故後の政治的、技術的、社会的反応についても述べられる。それらを踏まえて、将来の原子力事故予防策への批判的反映が試みられ、議論の的になっている科学技術の有効かつ責任ある規制のあり方や優れたガバナンスのあり方について論じられる。また、日本及び海外における原子力の将来そのものについてのインプリケーションも探られる。
福島第一原発事故は、現代社会が直面している、技術安全問題、エネルギー問題、環境問題、地域格差問題などの極めて重要なイシューが交差する場で起こった。本書は、文化的背景や研究関心を異にする研究者が、様々な切り口からこの事故を分析することを通して、事故の裏に潜む複雑かつ多面的な社会的構造の解明という大きなプロジェクトの礎の一角をなすものだといえる。また、本書は単に議論を分析だけで終わらせるのではなく、それに基づいて政策やマネジメントへの提言にも踏み込んでいる。ただし各論者において、必ずしも意見が一致しているわけでもなければ、議論が尽くされたわけでもない。しかし、科学技術社会論のこれまでの論議を踏まえたうえで、何が論点であるのか、それを支える論理はどのようなものであるかを理解するのに大変役立つ。
以上のように本書は福島第一原発事故のみならず現代社会と科学技術との複雑に絡み合った構造の解明や、安全、エネルギー、環境、地域などのいずれも現代社会の重要な問題に関わるものであり、それらに関心のある研究者、政策立案者、関連組織・機関の指導者や専門家、学生、そして一般の市民を読者として想定している。したがって、高度に専門的な内容ではなく、科学技術社会論の詳しい知識が無い人であっても読み進めることができる本である。
- 内容
Foreword (Ian Lowe)
1. Nuclear Disaster at Fukushima Daiichi: Introducing the Terrain (Richard Hindmarsh)
2. Social Shaping of Nuclear Safety: Before and After the Disaster (Takuji Hara)
3. Social Structure and Nuclear Power Siting Problems Revealed (Kohta Juraku)
4. 3/11: Megatechnology, Siting, Place and Participation (Richard Hindmarsh)
5. Environmental Infrastructures of Emergency: The Formation of a Civic Radiation Monitoring Map during the Fukushima Disaster (Atsuro Morita, Anders Blok and Shuhei Kimura)
6. Post-Apocalyptic Citizenship and Humanitarian Hardware (Denisa Kera, Jan Rod and Radka Peterova)
7. Envirotechnical Disaster at Fukushima: Nature, Technology and Politics (Sara B. Pritchard)
8. Nuclear Power after 3/11: Looking Back and Thinking Ahead (Catherine Butler, Karen A. Parkhill, and Nicholas F. Pidgeon)
9. The Search for Energy Security After Fukushima Daiichi (Jim Falk)
10. The Future Is Not Nuclear: Ethical Choices for Energy after Fukushima (Andrew Blowers)
11. Nuclear Emergency Response: Atomic Priests or an International SWAT Team? (Sonja D. Schmid)
12. Fallout from Fukushima Daiichi: An Endnote (Richard Hindmarsh)