世界で勝てるヒト、モノづくり??「実行に次ぐ実行」が会社を鍛える
著者名 | 井上礼之 著 金井壽宏 解説 |
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タイトル | 世界で勝てるヒト、モノづくり??「実行に次ぐ実行」が会社を鍛える |
出版社 | 日経BP社 2013年9月 |
価格 | 1100円 税別 |
書評
日本経済新聞社、より特定的には、『日経ビジネス』誌の企画で、経営教室シリーズというのが刊行され、その第5段として、ダイキン工業の井上礼之会長が取り上げられました。グローバル化をしっかり追求した稀な日本企業であるダイキンのCEOらしく、『世界で勝てるヒト、モノづくり??「実行に次ぐ実行」が会社を鍛える』が本書のタイトルとなっています。
この『日経ビジネス』の試みは、書籍化にあたって、各巻に、経営学者がコメントを載せるという点に特徴をもっています。わたしが敬意を払う多くの友人も、このシリーズの巻末の解説に登場していますが、井上さんの巻の担当を仰せつかって、とてもありがたいと思った理由がふたつあります。
ひとつは、井上さんが経営するようになってからのダイキンが「戦略にもすぐれ、同時に、ひとの大切にすることにも長けた」会社であることです。いつも、職場同僚の平野光俊教授と、話し合っていることでもありますが、組織行動や人材マネジメント(HRM)と経営者にいたるリーダーシップの育成に関心をもつ経営学者として、戦略とHRMの両面に優れた会社に関心をもっています。もうひとつは、人事のリーダー(CHO)から名経営者になるという経路に興味を深くもっていますので、それに該当する好例が井上会長だからです。
経営戦略にすぐれているけれども人に冷たい会社、また、人を大切にしているけれど戦略が曇っていて冴えない会社、このどちらも賞賛することができません。その点、この書籍のダイキン工業や他の代表的な会社としてヤマト運輸などでは、戦略の立て方、実行の仕方が卓越していて、その実現に働くひとりひとりが大きく貢献し、経営者によって、働くひとが大切にされています。大切にという中身としては、もちろん、グローバルな活動舞台で、「一皮むけるような経験」をさせるという厳しいものも含みますが、それがリーダーを育てるというのは、この書籍自身が示しています。このような会社について、もっともっと知りたい。そういうなかで、経営者の生の声が、聞ける機会は貴重ですが、それにそうそう恵まれるわけではありません。このシリーズでは、1時間目から4時間目まで、目の前に、井上会長がいて、語ってくれている感覚で読める点がありがたいです。なお、蛇足ながら、日経ビジネス人文庫から出ている『人の力を信じて世界へ』(井上礼之著、2011)もいっしょに読まれると、いっそう理解が深まります。
MIT留学時代に海外でお会いしたり、関経連さんをはじめ、経済団体の会合でお会いしたり、また、ご多忙であるにもかからず、経営戦略と人材開発を結びつけるテーマで、井上会長と、ヤマト運輸の人事部長だったころの山内雅喜さん(現社長)をお招きして、神戸大学とゆかりの現代経営学研究所野ワークショップを開かせてもらいました。この日のテーマも、戦略にすぐれ、ひとを大切にしている会社ということでした。その筆頭が、ダイキンさんとヤマト運輸さんだということで興味が尽きない参加者からも貴重な質問を賜りました。
この書籍へのわたしの解説では、リーダーシップという観点から、井上さんから学ぶべき教訓を書かせていただきました。ゲラ段階で原稿をご覧になった(かと思われる)ダイキンから来られているMBA院生には、「ほめ過ぎ」と言われましたが、読まれた皆さんの感想を楽しみにしております。
- 目次
【1時間目】
人から始まるM&A 異質の融合で「強み」を伸ばす
・2010年に空調売上高で世界一を実現
・「1+1」が2以上になるM&A
・過去の買収では技術者の離反を招いたことも
【2時間目】
世界最適のモノ作り体制 「最寄り化」進め市場を深耕
・国内生産主体でも利益を出し続ける
・「匠の領域」が競争力向上に不可欠
・工場は市場最寄り化、暗黙知は海外に水平展開
【3時間目】
技術でも事業でも勝つ コアを開示して「世界標準」を握る
・鉄則は「仲間を多く作った者が勝つ」
・国際ルールを“作る側”に回れ
・地道な啓発活動が世界標準化への近道
【4時間目】
「人を基軸」経営の本質 実行なき戦略は無に等しい
・「フラット&スピード」が飛躍の要因
・トップの決断は「六分の理」でOK
・本社と海外をつなぐブリッジパーソンを作れ!
【解説】変革型リーダー、井上礼之会長を読み解く
〔金井壽宏・神戸大学大学院経営学研究科教授〕