組織エスノグラフィー
著者名 | 金井壽宏 佐藤郁哉 ギデオン・クンダ ジョン・ヴァン-マーネン 編著 |
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タイトル | 組織エスノグラフィー |
出版社 | 有斐閣 2010年12月 |
価格 | 4095円 税込 |
書評
書いている本人が、出版を楽しみに待った書籍というと笑われそうですが、この書籍は、共に著してくださった方々が、組織エスノグラフィーというテーマをめぐる、わたしにとっての恩師・兄弟子・盟友ですので、そのような風に待望の一冊でした。
MITの組織研究グループ(OSG)のジョン・ヴァン-マーネン氏は、警察組織のエスノグラフィーで知られ、経営学の組織論にもこの方法を持ち込んだ立役者にして、わたしの留学中の恩師です。ギデオン・クンダ氏は、テルアビブ大学に勤務し、ブルースを愛好する社会学者で、スタンフォード大学のスティーブ・バーリー氏と並ぶヴァン-マーネン氏の高弟にして、わたしの兄弟子です。佐藤郁哉氏は、わが国でエスノグラフィーといえば、筆頭で名前があがる、わたしの方法論における師匠にして盟友です。
エスノグラフィーとは、民族誌とも訳され、文化人類学者が、古い時代なら、マリノフスキーがトロブリンアンド諸島で遠洋航海者の民族誌を描いたように、未知の部族のものの見方や文化を、内部者の視点に近い観点から描き出す試みです。それは、文化人類学者や社会人類学だけに閉じているわけではなく、都市に起こっていることの記述や、警察、ハイテク企業、暴走族、劇団と演劇会、出版社と出版業界の現場で起こっていることの記述にも、活用されるようになっています。都市社会学では、シカゴ大学における佐藤氏の恩師方が、組織社会学ではMITのヴァン-マーネン氏とその影響を受けた方々がリーダーシップをとってきました。この本の著者は、わたし以外は、そういった世界の重鎮です。わたしはといえば、これらの組織エスノグラフィーの横綱の胸を借りながら、組織エスノグラフィーも用いたものの、真性のエスノグラファーという自信のない折衷主義者のまま、今日に至っています。
産業界でも、研修や研究会の場で、開発や会議の場への応用、マーケティングへの応用などを聞くようになりました。一方で、エスノグラフィーの名が知れ渡るにはいいけれども、中身が大きくずれていたら困ったことだと少し心配をしていました。そのため、このタイミングでこの書籍が出たことを、恩師・兄弟子・盟友とともに喜びたい−−そのような気持ちをもてる書籍がこれです。
クンダ氏と佐藤氏とわたしとは、それぞれが実施し書き上げたエスノグラフィーの制作過程の苦労について、コンフェッション(告白)をしていますが、それは、ヴァン-マーネン氏からの視点によれば、エスノグラフィーの書き方のひとつの作法ということになります。もっとリアリズムで書くエスノグラファーもいれば、絵画の喩えで言えば、印象派の絵のように記述するエスノグラファーもいます。ヴァン-マーネン氏の章は、書き方の作法をめぐる前著(ジョン・ヴァン-マーネン(著)、森川 渉 (翻訳)(1999)『フィールドワークの物語―エスノグラフィーの文章作法』現代書館)のアップデートにもなっているので、その点でも、貴重な投稿となりました。
このような書籍を出してくださった、有斐閣さまに感謝です。学術書であるために、高価になってしまった点だけ、読者の皆さまにお詫び致します。
目次
第1部 導入──組織エスノグラフィーとは何か
1 組織エスノグラフィーへの招待(金井壽宏)
2 組織エスノグラフィーの源流(佐藤郁哉)
第2部 3つの告白──組織エスノグラフィーの実際
3 組織エスノグラフィー考──Engineering Calutureができるまで(ギデオン・クンダ)
4 ボストンの企業者ネットワーキングの場──対照的な場のエスノグラフィーと比較分析(金井壽宏)
5 組織エスノグラフィーと試行錯誤──『現代演劇のフィールドワーク』ができるまで(佐藤郁哉)
6 参与観察vs.エスノグラフィー(佐藤郁哉)
第3部 組織エスノグラフィーの過去・現在・未来
7 続・フィールドワークの物語──私の夕食のための詩(ジョン・ヴァン-マーネン)
あとがき