矛盾の経営―面白法人カヤックはどこが「面白い」のか?

著者名 古井一匡 著(巻末対談 金井壽宏)
タイトル 矛盾の経営―面白法人カヤックはどこが「面白い」のか?
出版社 英治出版 2011年11月
価格 1600円 税抜

書評

この書籍は、興味ある起業家で、興味ある会社を設立され、その会社が提供するサービスだけでなく、この会社で働く人びととの関わり方においてもユニークな取り組みをされている株式会社カヤック代表取締CEO 柳澤大輔氏に関する書籍である。 以前に、別の書籍、『面白法人カヤック会社案内』に寄稿させてもらったこともあるが、本書では、巻末に柳澤氏との長いインタビューを載せてもらった。(195-227頁)。

組織論学者のJ.マーチは、「組織された無秩序(organized anarchy)」という言葉で、経営精神分析学者のM.ケッツ・ドブリースは、王様の近くにいる道化のような「賢明な愚者」というアイデアで、ビジネスライターのM.シュレーグは、「真剣な遊び(serious play)」という軽妙な表現で、キャリアカウセンリング心理学者のJ.クランボルツは、「計画された偶然性(planned happenstance)」というキーワードで、創造的で特徴ある組織の在り方や、そこで活躍する人びとの生き方、働き方を形容した。このように一見矛盾する言葉を並べてひとの注意を引く修辞法を、オキシモロン(oxymoron)と呼び、この修辞法は、形容矛盾による撞着語法と呼ばれる。上記以外にも、ポール・サイモンの「サウンド・オブ・サイレンス(沈黙の音楽)」という語法がそれにあたる。

さて、カヤックという会社、柳澤氏の生き方、働き方をみていると、がちがちの組織ではない不思議な組織の在り方や、仕事を遊び、遊びを仕事としているような生き方、働き方を垣間見ることができるし、そのかなりの部分は、可視的な制度に結晶している。たとえば、カヤック以外に、サイコロを振って、給与を決めている会社があるだろうか。びんぼうゆすりともいう膝を小刻みに動かす癖を利用して発電する機器を開発して販売する会社があるだろうか。 不思議な会社だと思う。上記のシュレーグが、「真剣な遊び」という言葉で取り上げたのは、ベンチャー企業である。この言葉は柳澤氏達へのプレゼントのような言葉だが、この書籍の執筆段階で、なにか興味ある対談が実現すればいいなあ、ということで、昨年の夏頃に、神戸大学大学院経営学研究科の科長室にお越しいただいた。そのときには、対談で出てきたアイデアが、本書の各所に散りばめられるのかと思っていたら、もっとストレートに巻末インタビューとなった。「経営学の視点からみたカヤックの矛盾」という対談のタイトルは、もちろん、ポール・サイモンの「サウンド・オブ・サイレンス」がすばらしい音楽であるように、オキシモロン的なすばらしさを形容する褒め言葉として用いられている。

はじめに
序章 カヤックはどんな会社なのか?
第1章 「何をするか」より「誰とするか」
第2章 自分たちの「強み」を確認
第3章 経営理念を「遊ぶ」
第4章 「構造と制度」の整備
第5章 組織拡大とチーム運営
第6章 ネットワークと組織の質的変化
第7章 今後の課題と挑戦
巻末対談 経営学の視点から見たカヤックの「矛盾」
【コラム1】シンクタンク研究者が見たカヤック
【コラム2】ベンチャー・キャピタリストが見たカヤック
【コラム3】ベンチャー企業経営者が見たカヤック
【コラム4】ウェブ・クリエイターが見たカヤック
おわりに