Industrial Innovation in Japan


著者名 原拓志 上林憲雄 松嶋登 編著
タイトル Industrial Innovation in Japan
出版社 Routledge 2008年5月
価格 £75.00 (US$ 150.00)

書評

本書は、近年の日本企業におけるイノベーションの実態や趨勢について、様々な産業のケーススタディをもとに明らかにしていこうとする研究を、「技術の社会的形成」という統一的視座からとりまとめたものです。取り上げられる産業は、かつて日本のイノベーション・システムとしてその脚光を世界的に浴びてきた自動車やエレクトロニクスだけではなく、機械、化学、製薬など各種の製造業、さらには自動車ディーラー、証券業、コンテンツ産業といったサービス業も含んでいます。各ケーススタディは、国内の気鋭の若手研究者によるもので、それぞれの産業についての豊富なデータや知識を基礎にしながらも、各産業の興味深いイノベーションの実態や趨勢について紹介しています。

本書の主たる特徴は、従来よりも広範な産業を取り上げ、また、戦後から現在に至る比較的長い期間を視野に入れることで、日本の産業イノベーションにおける、多様性と共通性、変動性と持続性の各側面について示したことにあります。また、イノベーションと社会の諸特性との関連についても議論しています。さらに、これらのケーススタディを、「技術の社会的形成」の図式を念頭に俯瞰することによって、日本の産業イノベーションの大きな特徴や変化を示しています。

本書で明らかにされた一般的趨勢には、製品志向から事業システム志向へ、国内活動志向からグローバル活動志向へというものがあり、その今日的なあり方が、日本型経営が礼賛された1980年代のそれとは随分異なったものになっていることが発見されました。他方で、日本企業のイノベーション過程には、事前ルールや契約よりも関係機能間における不断の密接な相互作用によって不確実性を排除していこうという志向性が一般的に見られました。また、それぞれのケーススタディでは、産業固有の特徴や変化も見いだされました。こうした多様性と共通性、変動性と持続性を内包した日本の産業イノベーションの状況を世界に発信すべく、英語で出版したのが本書です。

本書が引き金となって、日本のイノベーション、産業、さらには社会についての分析や将来についての議論がさらに進展し、イノベーションと経営、社会についての理解が進むことを望んでいます。英語で書かれた研究書ということもあり、多少とっつきにくい記述が含まれているかもしれませんが、イノベーションや技術政策、日本的経営などに関心のある向きには、ぜひご一読いただければと思います。

目次

1 Introduction (Takuji Hara, Noboru Matsushima and Norio Kambayashi)
2 The social shaping of technological paths: antibiotics in Japan (Takuji Hara)
3 Institutional changes and the emergence of electronics transactions in the Japanese manufacturing industry: beyond the dichotomy of technical efficiency and social legitimacy in institutions (Noboru Matsushima, Mitsuhiro Urano and Takuya Miyamoto)
4 Technological innovation induced by tacit scientific knowledge: research and development in the Mirai semiconductor project (Yuji Horikawa)
5 Development of the carbon fiber business in Toray (Katsuo Toma)
6 Reorganizing mature industry through technological innovation: de-maturity in watchmaking industry (Junjiro Shintaku and Kotaro Kuwada)
7 Innovation impacts on the digital device industry (Munehiko Itoh)
8 New product development beyond internal projects: a case of joint new product development (Shinichi Ishii)
9 Application of Japanese production methods to the service sector (Takashi Matsuo)
10 Emerging competitive value in use with materiality: the negotiated transformation of business systems with regard to the online securities market in Japan (Kosuke Mizukoshi and Noboru Matsushima)
11 Analysis of the innovation process created through the management of business incubators in the Japanese content industry (Misanori Takahashi)
12 Industrial innovation under the influence of Japanese culture (Norio Kambayashi)
Bibliography
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