IPO市場の価格形成

著者名 忽那憲治
タイトル IPO市場の価格形成
出版社 中央経済社 2008年9月
価格 2500 税別

書評

IPO市場における公開価格の決定は効率的に行われているのか、どのような価格決定方式が効率的なのかということは、世界中のファイナンス研究者が関心を持って今なお取り組んでいる主要テーマの1つと言えよう。IPO市場を巡っては、初値が公開価格を上回る短期的なアンダープライシング(Short-Run Underpricing)、公開後の長期株価パフォーマンスが市場インデックスを下回る長期的なパフォーマンスの低下(Long-Run Underperformance)、時期による市場の過熱(Hot Issue)などのパズル現象が見られ、多くの研究者および実務家の関心を集めている。とりわけ、IPO市場におけるアンダープライシング現象に関しては、1960年代後半から70年代初頭にかけての先駆的研究以来、今日まで40年間にわたって理論と実証の両面で豊富な研究の蓄積が見られる。

IPOにおける公開価格の決定においては、世界の各市場で多様な方式が採用されている。アメリカにおいて採用されているブックビルディング方式が世界の多くの国々で広く普及してはいるものの、入札方式や固定価格方式を採用している国も依然として多くある。また、ブックビルディング方式が主流のアメリカにおいても、GoogleやMorningstarが入札方式を用いて株式公開するなど、ここ数年注目すべき動きが見られるようになっている。一方、わが国においては1997年9月にブックビルディング方式が導入され、入札方式との選択が可能になっているが、導入直後の制度移行期に入札方式を採用する企業が数社見られたものの、それ以降はすべての企業がブックビルディング方式を採用している。このブックビルディング方式を巡っては、入札方式や固定価格方式と比較して、アンダーライターの自由裁量が大きいため、価格の決定や株式の配分プロセスが不透明であるといった批判も根強い。こうした批判への対応として、大手証券会社においても1-2割程度を抽選による配分とし、ネット証券会社が主幹事を担当するIPOにおいては、株式の配分をすべて抽選で決定する方針を採用しているところもある。本書では、IPO市場の価格形成に関して、理論と実証の両面から、主として公開価格の決定方式との関連性を考察している。

目次

まえがき
第1章 日本のIPO市場の現状
第2章 IPO市場研究の分析枠組み
第3章 日本のIPO市場改革の効果
第4章 アメリカの入札方式導入の試み
第5章 IPO市場の価格形成のメカニズムデザインに向けて
参考文献

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