シリーズ 人的資源を活かせるか2-成果と公平の報酬制度-


著者名 奥林康司 編著
タイトル シリーズ 人的資源を活かせるか2-成果と公平の報酬制度-
出版社 中央経済社 2003年7月
価格 2900円 税別

書評

本書は、21世紀初頭における日本企業の報酬制度とそれに関連する人的資源管理の諸制度の動向と新しい考え方を明らかにしようとしたものである。報酬制度には単に賃金制度や管理職年俸制のみならず、それを支える目標管理、人事考課制度、福利厚生制度、退職金や企業年金制度などが含まれる。

これらの報酬制度は終身雇用や年功賃金を前提にしていた伝統的な人的資源管理とは根本的に異なる方向に変化している。年功賃金は、勤続に伴う技能の向上を前提にし、高い技能を有する従業員に生活を保障しうる賃金を提供する報酬制度であった。そのような仕組みは、安定した市場と規模の拡大による成長を前提としてうまく機能しえたのである。しかし、デフレ経済にある今日、このような仕組みは根本から修正されることになる。

では、賃金制度は具体的にどのように変化しているのであろうか。年功的な賃金の上昇がなくなるとすれば、賃金は何によって決められるのであろうか。個人にとって公正で適正な賃金とはどのようなものであろうか。成果測定の基準とされる目標管理制度は果たして個人の貢献を公平に測定しうるのであろうか。新しい賃金制度のもとで人事考課はどのように修正されるのであろうか。賃金制度は変わったとしても福利厚生制度は従来のままでいいのであろうか。企業の退職金制度はもうなくなるのであろうか。そうすれば、定年退職後の生活は誰がどのように保障してくれるのであろうか。賃金制度の改革は検討すべき多くの問題をわれわれに残している。本書はこのような諸問題に対し企業の個別事例や実証的な資料に基づきながら解答を求めようとするものである。

本書の研究方法上の特徴は次の点に求められる。

第1に、賃金制度の問題を検討する場合にも経営学の視点を基礎にしていることである。賃金制度が改革される場合、それが企業経営やそこで働く勤労者にとってどのような意味があるかを考えていることである。例えば管理職年俸制が導入されたとすれば、それは経営にとってどのようなメリットをもたらし、管理者のモチベーションをどのように高めているかを分析している。新しい賃金制度が日本経済の活性化にどのように貢献しているかはここでは考察の対象から除外されている。

第2に、賃金制度改革の説明において、企業の事例や実証的資料を活用することにより、賃金制度の改革をできる限り現実に即して明らかにしようとしていることである。例えば、管理職年俸制においては三菱電機と東京電力の事例を取り上げている。その事例が公表されている限り、事例に沿って制度の変革を記述し分析することによって、制度の改革を具体的・客観的に理解することができる。あるいは、その事例に基づき読者自身が制度改革のメリット・デメリットを判断することができる。執筆者の判断自体を読者が再検討することができる。それによってより客観的な分析に近づくことができるであろう。

執筆者はそれぞれの専門分野で最先端の研究をしたり、改革を実践している専門家である。リアリティーに富んだ現状分析となっているので、そのような点に注目しながら精読してくだされば幸いである。

目次

序 章 報酬制度の研究課題
第1章 成果主義賃金制度の展開
第2章 目標管理と報酬制度
第3章 人事評価の諸問題
第4章 人事評価と報酬における公平性
第5章 管理職報酬制度の新動向
第6章 企業年金をめぐる諸問題
第7章 企業福利厚生制度の新動向
第8章 報酬制度改革の方向性