条件付き確率を考慮した監査リスクモデルとリスク評価の重要性

要約

わが国では、平成14年の監査基準の改訂により、リスク・アプローチの明確化がなされ、監査実務における導入が強く求められている。しかし、リスク・アプローチの先進国とも言えるアメリカやカナダでは、リスク・アプローチの基盤となる監査リスクモデルに多くの欠点が指摘されており、以前からこのモデルに対する批判がある。監査戦略の重要な指針である監査リスクモデルが不適切であれば、監査の実施全体に大きな支障が生じる。そこで、いま一度、この監査リスクモデルの問題点を明確にし、従来の監査リスクモデルに基づくリスク・アプローチの改善への手がかりを探る必要があるだろう。本稿では、条件付き確率の基本的な考え方を利用して、特に、達成される監査リスクの観点から、従来の監査リスクモデルに内在する問題点を指摘し、さらに、固有リスク及び統制リスクの評価の重要性を指摘している。

すなわち、第一に、従来の監査リスクモデルには、達成される監査リスクが当初意図した監査リスクよりも高くなる可能性があるという問題点が確認された。第二に、従来は、単に「高い」または「1.0」とされることもあった固有リスク及び統制リスクの評価引き下げが、達成される監査リスクが当初意図した監査リスクに近づいていくことが明らかとなった。また、条件付き確率の考え方を用いると、発見リスクの引き下げを行うよりも、固有リスク及び統制リスクの引き下げの努力を行う方が、最終的に達成される監査リスクを低くする効果が大きいことが説明された。この点は、従来の単なる乗算による監査リスクモデルでは明らかにされないことであり、条件付き確率の考え方を用いた監査リスクの評価を行うことによって、固有リスク及び統制リスクの評価の重要性をはっきりと認識できるようになったのである。

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小澤康裕

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