日本型人事管理の進化型-上場製造業の人事部長アンケート調査から-
要約
80年代、「日本型人事管理」(J型)は競争力の源泉として世界から注目を浴びたが、90年代に企業業績が下振れすると一転してその原因をJ型に帰属させる論調が頻出した。しかし、それらの多くは、J型を、画一的・年功主義的な人事管理と粗雑に規定した上で、個別的・職務主義的な「アメリカ型人事管理」(A型)への転換を主張するものであった。他方で、この2~3年は、日本企業の業績回復を背景に行き過ぎた成果主義を戒め、J型への回帰を訴える主張が出始めた。これらはいずれも啓蒙的なものであって、現実描写という点で問題含みである。というのは、人事管理は、組織の情報処理特性や一国の他の制度(労働市場や解雇整理法制など)との補完性に条件づけられるので、たとえ事前の合理的計算によって経営者(設計者)がA型へ転換を図ろうとしても、これまでの諸特徴を部分的に堅持した派生J型に移行すると思われる。同時に、日本企業はこれまでの10数年間に、主にA型の学習(模倣)と試行を通じた「変異→淘汰→保持」の進化プロセスを経たであろうから、元のJ型とは異なる多様な進化型が観察されるだろう。そこで本研究では、財務的業績を従属変数に、その規定因に人事管理の形態をおいて、特定の人事管理形態がなぜ効率的でありうるかを、上場製造業の人事部長を対象にしたサーベイ・リサーチによって検証した。
結果は、「職務主義のインセンティブ・システム」と「人事権の人事部集中」を組み合わせた派生J型が業績に対してプラスに作用する。さらに、派生J型に「コア人材の個別管理」(サクセッション・プラン)や「キャリア自律支援」(社内公募・FA制度、キャリア・カウンセリング)といった新しい人事施策を追加すると交互作用効果を得られること、また業績に対してプラスに作用することを発見した。これらの結果をもとに、日本型人事管理が派生J型に移行すると人事情報の費用を解決するように進化することを主張する。
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