国際提携におけるコンフリクト・マネジメント:MHI対中進出の事例を中心に

要約

本研究調査は、三菱重工JVに関して、その設立から運営に至るまでの評価、及び他社(GE)のJVとの比較・評価などについて調査に資することを目的としている。我々加護野研究室は三菱重工の中国側パートナーである東方電気集団、そしてハルビン電気集団を調査対象として、それぞれの三菱重工との国際提携の進捗状況について、集団会社とタービン社の関係者に対してヒアリング調査を行った。さらにJVの取締役会にオブザーバーとして出席し、提携の現状を把握した上で、進行中のプロジェクトに対する中国側パートナーの真相や提携への要望と具体的なニーズを探ることで日中パートナーの双方を利するように有益な情報を収集した。調査の具体的な項目として、
(1)中国JV(広州)の立ち上がり状況の確認・分析;
(2)中国国有企業である 東方タービン側から見たJVの分析;
(3)GEの中国戦略との比較(ハルビンとの連結、コア技術の確保);
(4)三菱のビジネスモデル(新規受注、サービス)の評価;
(5)東方タービンへの技術移転の進捗状況;
(6)政府組織の動き;
という6つを設定した。関係者へのヒアリング調査の結果、明らかになった要点は以下のとおりである。

1.中国事業のビジネスモデルの構築

第1点は、MHIの中国事業に関するビジネスモデルについてである。これは極めて大きな問題が抱えているように思う。三菱重工の中国事業の今後のビジネスモデルを考えるに当たって参考になるのは、GEのグローバル事業のビジネスモデルである。GEは、中国事業をグローバルネットワークののなかに位置づけている。GEのグローバルネットワークは、製品のモジュール化をもとに構築されている。世界の各拠点は、あるモジュールの生産に特化している。子拠点の多くはコストの安い国々に立地している。これらのモジュールが比較的安価で中国に供給され、中国では最低限のアセンブリーが行われている。各モジュールの品質基準も緩やかである。ある程度の品質のモジュールを組み合わせてもうまく稼動するシステムを供給することができるのが、GEの独自能力である。

GEの中国事業の中核はアセンブリーである。それ以外では、比較的簡単なモジュールが中国に移管され、中国におけるサプライヤーの開拓と育成がはかられている、GEのビジネスモデルは、中国の急速な市場拡大に対応するにあたって効果を発揮している。GEは優秀な現地人材を多数採用することによって、現地サプライヤーの育成やコミュニケーション、政策動向の把握、市場調査などを行っている。これが可能になるのは中国での中核事業を単純化しているからである。技術移転の必要を最小化しているからである。

このようなビジネスモデルとは異なったモデルを生み出してきた三菱重工は、中国でどのようなビジネスモデルを構築すべきか。中国における競争力を高めて行くには、現地調達によってコストを下げる必要があるが、三菱重工がGEのモジュール方式を構築するには多大の経営資源と時間が必要となる。また仮に同じものを作り上げても、キャッチアップしかできない。GEに一日の長があるからである。また、GEのビジネスモデルが持続的な優位性を持ち続けることができるかどうかも再検討すべきである。中国政府もGEモデルの限界に気づいているからである。GEの国産化率の低さを、中国政府は問題視している。

GEのモデルを参考にしながら独自のモデルを作るべきだという課題に直面されている。GEと対抗するために三菱がつくるべきビジネスモデルは、中国国内の技術分業ネットワークの構築である。モジュールよりも、技術に注目した分業体制の構築である。三菱重工は、技術に支えられた品質優位で競争力を発揮すべきであると考えるからである。そのためにすぐに行うべきことは、現在の様々なプロジェクトを通じて、パートナーの得意分野を作ることである。現在、三菱は中国国内で多数のプロジェクトを並行的に実行している。それぞれのプロジェクトでは、プロジェクトの納期に合わせた完成が目指されており、どの技術をどの合弁あるいは提携パートナーに移転するのかについて戦略が明確に整理されていない。技術分業体制を作るためには、それぞれの合弁プロジェクトの技術移転の進捗状況を見て、それぞれの強みを利用できるような分業戦略を明確し、それをもとにメリハリのある技術移転を行っていく必要がある。

2.中国プロジェクトを促進させる組織体制の再構築

第2点は、中国合弁事業を支える中国型の組織体制の整備についてである。東方とのガスタービンの合弁事業で東方側のプロジェクト・チームがうまく機能していない。プロジェクトリーダーの命令が貫徹しないのである。中国側はプロジェクト型組織に慣れていないため、プロジェクトリーダーの命令が貫徹しない。命令を貫徹させるには、中国側企業のトップの協力が不可欠である。それを引き出せるような組織体制を日本側でも作る必要があるように思う。東方は国有企業であり、社会主義の上意下達型の組織体制が残されている。こうした組織体制のなかで、三菱とのプロジェクトをうまく機能させるにはプロジェクトリーダーではなく、社長が命令する組織を作ってもらう必要があるではないかと思われる。こうした古典的の組織体制に対応するには、三菱は対等で直接中国側の社長と対等に話せる人材を現地に派遣する必要があるように思われる。

3.現場での信頼関係の構築のために

第3点は、合弁事業の接点における信頼の構築という問題である。もっともミクロの問題ですが、相互の不信が今後の協力関係の障害となる危険がある。調査結果、現場での信頼関係の情勢を損なう小さな問題が続発している。たとえば、中国側は、技術移転のコストがかかりすぎるという不満を持っている。研修生の日本での生活費を少し負担するなどの小さい工夫で信頼関係を修復できれば、大きな利益を得られる可能性がある。

また、通訳の能力に対する不信もある。実際に通訳の仕事は大変であり、話のニュアンスとかうまく伝えることのできないところも出てくる。三菱は中国での事業を今後さらに拡大していくと考えられるので、通訳の質と量を充実すべきではないかと考えられる。そういう意味で、日中双方の言語的・文化的架け橋になりうる中国人を増やす必要がある。

以上のファイディングの中では、我々は企業間の信頼関係を築くのを妨げるコンフリクトに注目した。それは日中企業間の提携にとどまらず、あらゆる国際提携に共通する課題である。通常議論される慣習や文化(異国間の文化、及び企業文化)から生じるコンフリクトもあれば、事例の中に取りあげられた組織体制の違いや技術の格差、コミュニケーションの問題から生じるコンフリクトもある。ここでは主に後者にあたるコンフリクトに焦点をあて、ディスカーションを進めることに試みたい。

組織体制から生ずるコンフリクト

東方ではガスタービンのプロジェクトを実行するチームが立ち上がっている。そのメンバーは必要とされる部門から集まっているが、共同のオフィスで仕事するのではなく、人事上もそれぞれの部門に属している。さらに、プロジェクトの進行と現場の問題に詳しいチームリーダーは、実際に人を動かす権限を持っていない。プロジェクトを進めていくには他部門の協力が必要であり、また、必ず他部門に迷惑がかかる。そうすると、仕事と組織の複雑さのギャップを個人で補っていかなければならなくなる。この場合、自分の命令の権限下にいる人だけでなく、上司や他部門の同輩を動かしていかなければならない。つまり、動かさなければならない人の数と、実際に命令権を持って動かせる人の数との間にギャップがある。これがいわゆる加護野の言うパワーギャップである。東方では階層的な上下関係を持つ組織体制と、横の緊密な連携が必要とされるプロジェクト・チームとの間に、パワーギャップという問題が生じている。

具体的には技術移転の進行に伴い、表面化した様々な問題の解決が妨げられている。例えば、最も致命的な問題は、技術に対する認識である。GEタイプの蒸気タービンは、MHIのガスタービンと精度も内部構造も違う、いわば基本的な設計思想が違っている。MHIのやり方を100%その通りに実行する必要はないが、基本的に違っている考え方を理解せずに東方流で実行してしまっていることにMHIのTA達が気づいた。TA(Technical Adviser)達は品質を確保するため、チームリーダーを通じて東方の社長や担当の副社長にいろいろと提案した。しかし、現場を知らない、かつ公務に追われているトップは、適切な対応ができない。チームリーダーや事情を理解している陳副社長は、こうした硬直した組織体制を動かして問題を解決するため、TAやMHIに理解と助力を求めた。MHIの関係者は、東方の組織体制上の問題を実感しているが、「我々に頼るのではなく、チームリーダーにもうちょっと権限を与えるという組織を作っても良いではないか」、「MHIの下請けであれば徹底的にやるが、東方とは共同であり、対等の立場である。東方の組織まで関与できない」、という姿勢を示している。

確かに組織体制上のパワーギャップをどのように埋めるかは東方内部の問題である。しかし、東方はパートナーであり、他のパートナーに取って代わることができない以上、東方内部の問題でこのプロジェクトが難航していると、東方は自信を喪失することになりかねない。さらに、このプロジェクトは中国全土から注目されているので、政府や業界関係、ユーザーの評価を得なければ、中国市場や中央政府の信頼を喪失することもなりかねない。そうなると、こうしたMHIに対する社会的な認識は、JVや他のプロジェクトの中国での展開、いわば、MHIの中国進出にマイナス影響を及ぼすに違いない。そのために、ガスタービンのプロジェクトを失敗させない、東方の自信を喪失させないようにすることは不可欠である。実際に技術の国際移転や製造の分担など国際的な合作を推進していくときに、有効な協力関係を築くためには、まずパートナーの実態を正確に認識しなければならない。

東方は指定された素材を無視して勝手に入れ替えしたり、実際の製造工程を隠したりして、MHIに十分な情報公開をしていない部分が多いと、インタビューでは実感した。その原因の1つは、弱みを見せることに対する抵抗感やプライドがあるからである。もう1つは、双方の間に十分な信頼がまだ築かれていないからである。東方は納期が迫っているという焦燥感を持ち、STからGTへという非連続的変化に伴う技術や熟練の陳腐化に対する不安を抱いている。提携を成功させるためには、東方が持つこうした不安と焦燥を、上手にマネージしなければならない。あるいはそれを活気のエネルギーに変えていく、さらに活気をMHIが望む方向に活用していかなければならない。

素材も製造方法も微妙に異なる。放っておくと、自らの素材や生産方法を強調しがちな東方タービンでは、技術進歩は起こりにくい。東方がMHIのやり方や企業理念・文化、思考様式を理解し受け入れてくれるのであれば、それをきちんと伝えなければならない。なぜならば、東方は東方のやり方、つまりこれまでの運動法則を持っているからである。もちろん環境の変化に東方もその運動法則を変えようと認識しつつあるが、国有企業としての組織慣性は大きいように思われる。従来型の階層的管理体制の中では、指導役であるMHIによる外部からの強い押しつけがなければ、実行に移せないと言うこともなりかねない。そういう意味で、東方がMHIの力を借りて硬直した組織体制を動かすということになれば、改革する自覚や意欲が十分あることを表しているであろう。東方はいろいろ問題を抱えているが、手間暇をかけて中国市場での見方になってくれるように東方を育てていく価値があるのではないかと思う。もちろん言うまでもなく東方の自主性とMHIの手助けとのバランスに工夫が必要となる。

統計的に精密な分析が行われていないので、結論を下すことはできないが、中国市場に進出している外国企業の事例についてみれば、日本企業に比べ、欧米企業の方が政治的活動に積極的であり、上手にこなしているように思われる。その背景には、日本企業は真面目でビジネスの論理にこだわりっているという理由もある。中国現場レベルではビジネス活動がビジネスの論理ではなく、政治の論理に支配されるところが未だに存在しているのが実態である。戦略的方針は間違っておらず、相手の実態を正確に認識し判断して全体をまとめていくために、東方に駐在されている技術指導者には強力な政治力とシーダーシップが必要となるであろう。それは、本社から十分に権限を与えられる統括役でなければならない。後に取りあげる対応が遅い問題、コミュニケーションの不調にも絡んでくる問題の本質はここにあるかもしれない。こういう意味で、東方の組織体制におけるパワーギャップをどのように埋めるかという問題は、他人ごとではなく、2社共通の課題であるように思わざるを得ない。

TAの指導に対する現場レベルの抵抗・反感

東方では現場の問題はなかなか会社トップまで伝わらない。MHIから派遣されたTAは、品質を高めるため、QCパトロールや委員会を実施することによって、品質の悪さ加減をオープンにして、それを全部まとめて社長に報告することにした。それに対して、現場からの抵抗が大きい。現地調査の間に、第2回目のQCパトロールを観察することができた。現場には緊張感を漂い、反感は作業者にとどまらず、工場長まで不満に思っていた。その後、チームリーダーに「QCパトロールをやめてくれないか」と工場長から電話があったという。「やり方は少し工夫する必要があるかもしれないが、TAは我々の品質を高めるためにやっているので、QCパトロールを続けるべきである。工場長としての認識が正しくしないときに、どうやって作業者を説得するか…」、チームリーダーは1時間以上説得していたが。中国国有企業において、新しい制度を導入することは、明らかに難しい。東方の悪癖を根本的に直すには、「好まれざる人の立場」を自覚しながらTAは多大な努力する必要がある。

特に現場レベルの抵抗が強かった原因として、主に3つがあげられる。第1に、現場は「井の中の蛙大海を知らず」であるように思う。陳副社長の言うように、長い間の努力でハルビンと上海に勝ち抜いてきた東方は、国内では「見習うべき手本がない」ほど、自信を持っている。外の世界を知らず、現場の人は特に自分の生産能力と技術力に誇りを持っている。第2に、日本企業の特徴であると言われる現場の経験や勘、暗黙的な技などは不明確であり、国際移転に不向きなように思う。こうした要素は誤解を招き、技術指導への理解を妨げている。東方の現場は、MHIが海外への技術移転の経験がない、教える立場になりきっていないと、TAのやり方に反感を抱いてしまう。第3に、教育水準、判断に必要とする思考力や判断力が高いとは言い難い現場レベルは、歴史的問題や政治的社会環境について、マスコミに左右されやすいからである。

コミュニケーションの問題

事例ではサプライヤーの資格審査の進度が遅れていることを取り上げた。生産が間に合わない部品についてMHI側に助けを求めたが、2ヶ月立っても見積書は送ってこないなど、問い合わせに対する対応が遅いという苦情を東方は持っている。東方側はこの問題の主たる原因を以下のように考えている。第1に、購買市場は買い手市場から売り手市場に変化しているなど、取り巻く環境の変化によって、予想しなかった問題が大いに出てきた。生産計画などきちんとされているMHIに助けを求めても、アレンジし難いところがある。しかし、解決策ではなくでも、代案や対応策を考えるには、なるべく早くYesかNoかという返事が欲しい。第2に、メール伝達による通信に問題がある。メールが届いていなかったり、届ける担当者を間違ったりしているがゆえに、対応が遅れってしまったこともある。高砂の中国室に東方担当のまとめ役がおられるなら、すべての連絡を彼に送り、彼から関連部門を調整すれば、こうした間違いは少なくなるではないかとおもわれる。第3に、言葉の問題による誤解やコミュニケーションの正確性に問題がある。言語はコミュニケーションにとって大きな壁の一つである。

東方は、現場からトップまでのコミュニケーションの好例として取りあげている日立との間で摩擦がなかったわけではない。当初、東方と日立との関係は、今のMHIとの関係よりギクシャクしていたという。今のような良好関係を築いてきたのは、日立は摩擦解消に取り組む体制を作り、現地に全体を統括する人物がいたからであると、東方は解釈している。では、日立の一方的な努力で、摩擦解消に取り組んだのか。東方は何もしなかったのか。おそらくそれは考えにくい。国内ニーズの少ない当時、注文を取ってきた日立に対して、東方
は積極的にコミュニケーションを取る姿勢があったように思う。もう1つ重要な要素として、仕事に飢えていた東方は、日立のやり方や要求に適応し、摩擦を解消する時間が充分あった。そして外部要因として、当時の日中関係を含む政治的社会環境は安定していた。鄧小平の「30年不談政治」という経済発展を優先する方針があったからである。

しかし、ここ数年2社を取り巻く環境では、「政冷経熱」と言われる現象が深刻化しつつある。それに、経済発展に伴う電力不足により、中国国内のニーズが急速拡大して生産が追いつかないという現状がある。このような現状の中で、東方は、十分にMHIの要求に適応する体制を確保できないし、時間的に適応する余裕もないであろう。当時と比べると現在の技術レベルも供給の仕組みも極めて複雑になっているし、提携関係もまったく異なっている。にもかかわらず、東方の組織体制や管理体制、生産の仕組みも変わっていないし、提携相手に求める姿勢も変わっていない。人間は過去の経験から過剰に学んでしまうことが多く、先を見る姿勢が不足がちになる。

MHIも中国進出をここ数年急速に展開し、各地で多数プロジェクトを平行に進めている。そして、納期の制限があり、前に前にプロジェクトを進めなければならない。つまり、走りながらものを考えている側面もあるように思われる。そのため、東方に対して、日立のような辛抱強い説得や指導がなかったであろう。それに、MHIに不利なのは、東方に日立が残した日本企業の姿が強かったかもしれない。同じ日本企業でも、企業の歴史も違っておれば、文化も性格もまったく違っている。MHIは自分なりのやり方でそれを乗り越えねばならない。そのため、一定の時間と心理的エネルギーの投入が避けられないであろう。一旦軌道に乗せると、その後の運営がラックになる。しかし投入期にラックにしようと思ったら、軌道に乗せるまでの期間がずるずると長くなるし、その後の運営にも、問題が出てくる。

MHIから派遣されたTAは現地に来て、おそらく工場現場や生産能力、技術力などについてのイメージに大いにギャップがあると実感している。製品の品質の改善、個々の製品の評価を行わなければならない。苦労はしているが、お互いに理解し合うようになりつつある。しかし、それでも様々な誤解が生じていることが明らかである。双方とも相手の対応が遅いという指摘があった。MHIから派遣された駐在責任者らへのインタビュー後、彼らが持つ問題意識について、チームリーダーに事情を確認することにした。ほんの一部の問題は、東方タービンのトップの対応から生じたものである。しかし問題の多くは、認識の違いやコミュニケーションの不調から生じた誤解であることが明らかである。

現地調査で度々取りあげられたが、MHIには東方現地で全体を統括してプロジェクトを推進させる強力なリーダーがいないという問題があった。これまで東方の提携プロジェクトのなかで、GEやALSTOM、日立との提携では、東方で広く名前が知られるまとめ役とする中核人物が本社から派遣されていた。新しい事業を展開するだけで、担当者の能力とエネルギーが要求される。外国ではなおさらである。MHIからの派遣者は責任分担が明確である。彼らはそれぞれの担当分野で重要な役割を果たしていることを否定できないが、コミュニケーションは断面的になりがちだと思われる。

これからは、Contents specialistと呼ばれる専門知識を熟知した人から、内容について熟知していなくとも、一緒になって人々がよりよく考えていけるようにガイドしていく、Process facilitatorと呼ばれる人の機能が重要になる。つまり、事業スタッフとは、プロセスをリードするのではなく、プロセスをうまく促進するようにいろいろな仕掛けを作ったり、人々を動かしたり、プロセスをファシリテート(促進)する役割を果たすのである。そこで問題なのはミドルの権限と役割のギャップであると指摘する先行研究がある。円滑なコミュニケーションに差し障りのある本質的問題から手を付けていくなら、先に触れたように、東方現地にプロジェクト全体を統率できるような統括役を発掘し派遣する必要があるかもしれない。

双方トップの方針がいくら良くても、実際に事業を構想する適切なプロモーター(ミドル)が出てこなければ、その事業はスムーズに推進することが考えにくい。それと同様に、高砂中国室も東方プロジェクトの全体をまとめなければならない。日本本社側も現地側もトップの方針と具体的なレベルの話とを連動させ、そして事業を推し進める統括役が必要となる。このような統括があれば、問題が起こったときにどこに連絡すればよいのかという迷いがないだろうし、対応の遅さやコミュニケーションの不調という問題も一定に解消するだろう。そういう意味からして、ミドルの発掘が一番重要である。組織体制上のパワーギャップをどのように埋めるかが、東方の直面する課題であるのに対して、東方現地に一定の権限を与え、統率できる適任者を発掘し派遣することが、MHIの直面する課題であるかもしれない。

もちろん、以上のような東方が抱えている課題の中には、誤解に因るところが十分考えられる。しかし、今後、良いパートナーシップを築くために、どのような企業行動を取るべきかを考える上で、なぜ相手に誤解を与えるようになったのか、その原因を探ることによって、重要なヒントが与えられるのではないかと考えられる。文化の相違は、国際間に限らず、同じ国の中でも企業間・地域間・個人間に存在する。厄介なものである一方、自分の行動に照らし合わせて、自己再認識のきっかけとなるものでもある。相違がもたらす対立や摩擦は悪いものと捉えられているが、異なる意見や摩擦があるからこそ企業行動を背景にする戦略方針やアイディアがさらに練り上げられる場合もある。相手の異なる意見に耳を傾けることは必ずしも無駄な行為ではない。そういう意味で、今後の協力関係づくりは、未知の戦略的課題でなく、これまでにパートナー双方が直面した既知の戦略的な課題を解決するという方向で組み立てられるべきであろう。

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高瑞紅

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