証券市場における情報量と取引量の関係
要約
我々はこれまでに、証券市場に関する支配的仮説であり、今日の先進資本主義諸国の証券行政が依拠する仮説でもある「効率的市場仮説」に関して、実験的技法を適用しつつ、さまざまな観点から疑問を投げかけてきた。実験結果を用いた多様な疑問を仮に総合すれば、市場の情報効率性を主張しえるような証券市場の価格現象は、意思決定の集合の中で、人々が合理的に行動したときにのみ見られるある特殊な事例に過ぎないのではないかということである。それよりもより広範な意思決定を行う可能性を市場参加者は持っており、実証や実験でその部分を認識することが可能になってきたと見るべきではないかということである。最近、そうしたより広範な意思決定の集合を心理学的集合と呼ぶことがある。もちろん、より徹底した合理性から説明することも可能かもしれないが、行動経済学あるいは実験経済学と呼ばれる領域では心理学的成果を取り込んで説明しようとしている。
本報告ではそうした研究の一環として、効率的市場であれば、市場参加者に提供される追加的情報が多くなればなるほど、当該情報を受けとる市場参加者の取引報酬は増大するはずであるが、そうした現象が確認できるのか、それともそれとは異なった現象が見られるのかについて、ファクトファインディグ的な実験結果を報告するものである。
実験は、神戸大学の経済経営研究所が所有する実験経済学・経営学ラボで行われた。被験者は9人の大学院生である。9人が証券市場(仮想市場)で1つの株式を、その株式の配当情報だけに基づいて取引する。そして、その利得(配当+利子)だけで被験者の優劣を判断する。その際、配当情報を各被験者に異なったレベル、つまり9人の被験者がそれぞれ1個から9個の異なった配当情報を所有するという状態、で与えて、その利得が配当情報の多寡によって上下するか、をみた。情報効率性を仮定するならば、配当情報が多いほど、利得が多いはずである。しかしながら、実際の結果はそのようにはならず、情報が1個しか与えられなかった被験者よりも低い利得の被験者が中間くらいの情報量を持った被験者の中にいた。このことは、情報量を増大させれば証券市場における取引環境が改善されるとうする単純な思考に警鐘を鳴らすものといえよう。すなわち、情報量の観点で市場参加者の中で中間くらいに位置する取引者は、情報をほとんど持たない取引者に比べて、より対象に情報を持った取引者の行動にひっぱられ、結果、損をするという心理的傾向を持っている可能性があるからである。
英文論題:
Experimental Research about the efficiency of stock market
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山地秀俊 |
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