伝統文化産業の事業システム−京都花街の事例−

要約

本論の目的は、日本国内に複数存在していた花街のほとんどが産業としての競争力を失い寂れた中で、なぜ京都の花街だけが産業として生き残ってきたのか、社会科学的な視点で考察することである。そのために、京都の花街が有する二つの大きな特色に注目する。一つは、京都花街の代名詞とも受け取ることができるここにしかいない芸舞妓という人材の育成、もう一つは、「一見(いちげんさん)お断り」で代表されるような京都の花街に独特の伝統的な制度である。

花街共同体には、人材育成に深くかかわる狭義の共同体と、取引システムによって結びつく広義の共同体があり、それぞれのメンバーは、花街の取引システム(お客への長期の掛け払いと業者間の短期の現金支払いの仕組みの)によって結び付けられている。さらにメンバーの技能をお茶屋がハブとなって評価し、かつメンバーも互いの技能を相互評価する仕組みがあることで、花街全体のサービスの質を保持するできる適正な取引が長期にわたって継続している。そして、そこに芸舞妓のキャリア形成が深くかかわっていることにより、芸舞妓の人材育成が促進されている。また、花街の中における情報の共有と伝達の仕組みがあることを明らかにする。お茶屋がお客に花街のルールを教え、お客の横暴をコントロールする仕組みがあり、過度の競争を回避することができています。また、お客の横暴をコントロールするだけでなく、最終的なサービスの評価者であるお客の質を高めることで、業界全体の質をチェックする機能を持っている。

著者 PDFへのリンク

西尾久美子

PDFファイル

(579.4KB)