財務的困窮企業の経営者による裁量的行動の分析 -継続企業の前提に関する追記表明をめぐって-

要約

本稿の目的は、倒産に直面した財務的困窮企業の経営者による裁量行動を明らかにすることである。先行研究で提示された証拠により、倒産に直面した企業は利益増加型の裁量行動を行う動機をもつと考えられる。さらに、ある時点で意図的に利益を増加させた企業は、その反動で後に損失を計上することになる。会計の発生主義のもとでは、実体のない会計的裁量行動は後に反転するからである。本稿では、継続企業の前提に関する追記の表明された企業が倒産に直面した財務的困窮企業であると仮定することで、倒産に直面した企業の経営者による裁量行動を検証している。
本稿の主要な結果は次のとおりである。すなわち、継続企業の前提に関する追記が表明された期に、当該企業は多額の損失(マイナスの異常会計発生高)を計上していたのである。これは、継続企業の前提に関する追記が表明される前に裁量行動が行われていたことによる反動である可能性が高い。本稿の分析対象期間は追記表明の2期前までであり、この範囲では経営者の利益増加型の裁量行動に関する直接的な証拠をえることはできなかった。しかし、本稿の結果は倒産に直面した企業の経営者は裁量的に利益を増加させ、後にその反動を経験していることを示す証拠であると考えられる。

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高田知実

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