救急医の熟達と経験学習

要約

本稿は、救急医7名に対するインタビュー調査を基にした仮説発見型の研究として位置づけることができる。得られた質的データを分析したところ、以下に挙げる点を発見することができた。第1に、救急医には、「診療技術」「患者・家族とのコミュニケーション力」、「他医師・コメディカルとの協働能力」が求められることが明らかになった。また、熟達した救急医は、短時間の間に、患者・家族や他医師・コメディカルとコミュニケーションする能力を身につけていることが示された。第2に、救急医は、「自己関連の信念」と「患者関連の信念」のバランスをとりながら医療に従事していた。熟達するほど医師は、ワークライフバランスを保つこと、および患者に意義のある死を迎えさせることを重視する傾向がみられた。第3に、救急医は、指導医や上級医といった「他者」から強い影響を受けており、熟達するにしたがい社会的なシステムやしくみの重要性を認識していた。第4に、若手の医師の熟達を支援する際、「教えること」と「考えさせること」の両立が大切になることが指摘された。以上の発見事実は、熟達論や経験学習論の観点から考察された。

キーワード:救急医、熟達、経験学習、信念

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松尾睦

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