イノベーションを生み出す制度:シャープ株式会社の緊急プロジェクト
要約
イノベーションを生み出す組織の制度化は、可能なのだろうか。この問題意識のもと、本ケースでは、数々のイノベーションを生み出してきた制度として知られるシャープの緊急プロジェクト(以下「緊プロ」)を取り上げる。緊プロは、組織横断的にメンバーを集めることで、既存の組織の枠組みを超えたイノベーションを可能にする制度として説明されてきた。だが、こうした説明は現実の緊プロとは乖離しており、他社では模倣が困難とも言われる。
本ケースを通じて明らかになるのは、緊プロがイノベーションを生み出す制度となるためには、抽象的な緊プロに対する信憑と、緊プロに喚起される感情が肝要となるということである。緊プロの制度化プロセスでは、社長名でシンボリックな社長通達が出され、取締役クラスのチーフが選抜された。こうした仕込みと演出を通じて、シャープ社内で、緊プロが同社の命運を担うプロジェクトであるという信憑が形成されてきた。一方で、公式的に掲げられた緊プロの目的には一般的な表現が与えられ、当事者の間でモデルとなる典型的なプロジェクトがあるわけでもなかった。だが、緊プロは抽象的な存在であるがゆえに、いかなる案件にも適応できる柔軟性を持ち合わせており、何よりも緊プロを名乗る以上、何に変えても成功させなければならないという感情を喚起していたのである。
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浦野充洋 |
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