組織行動論におけるクリニカル・アプローチ -エドガー・H.シャインのアプローチとアクション・リサーチの一形態-

要約

調査対象に影響を与えず客観的に観察、記録したデータから理論を構築する方法に対して、K.レヴィンは、調査協力の対象が支援や変革を求めているときに、その目的に貢献(介入)する形で実際の変革過程をともにすることによって実践的な理論が生み出される点を重視して、その方法をアクション・リサーチと総称した。クルト・レヴィンがグループ・ダイナミクスの研究を本格化したMITでは、ダグラス・マクレガーが、NTL(National Training Laboratory)の開設に関与し、当時若手であったエドガー・H.シャインやウォレン・ベニスもNTLの勃興期の動きに参与した。シャインは、そこから、プロセス・コンサルテーションという独自の組織開発の方法と、それを支える研究方法論として、組織行動論におけるクリニカル・アプローチを提唱するようになった。本稿の著者は、シャインが、クリニカル・アプローチを提唱した頃からMITの組織研究グループ(OSG)とコンタクトが深く、とりわけ、シャイン教授とは来日度に、長い時間、議論する機会があったので、新書、Helpingの邦訳が出版されたのを期に、本稿の元となる原稿を作成した。同時に、神戸大学大学院経営学研究科では、経営学におけるアクション・リサーチを目指すことが、研究・教育の方針のひとつの有望な方向として議論された時期であるので、シャインと近く接してきたものでないと書けないような考察を目指したのがこのDPである。さらに、神戸大学の環境では、管理会計グループでは、バランスト・スコアカードの病院への導入、大学附属病院の収支改善プロジェクト、公組織における管理会計などの調査において、実質的に経営アクション・リサーチがスタートしていることもあり、文部科学省の大学院院教育改革支援プロジェクトに神戸大学大学院経営学研究科が採択された機会に、経営アクション・リサーチの学問的基礎を、神戸大学の環境に閉じることなく、より広く論じる素材として、本稿をDPとして公開することにした。
 なお、組織開発についての著者自身のもうひとつの考え、ブリーフ・セラピーのMRI(Mental Research Institute)の理論を応用した組織変革方法については、つぎのウェブサイトで、関連論文をダウンロードできる。関連論文

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金井壽宏

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