中国におけるYKKグループの人材マネジメント改革
要約
世界で70を超える国と地域で事業を展開するYKKグループ。ファスナー市場においては,国内で9割,グローバルで4割以上のシェアを誇る。YKKは早くから海外に進出し,顧客企業の近くに拠点を構え,クライアントのニーズに素早く対応する“パラシュート型経営”によって,グローバル市場におけるトップランナーとなった。その海外事業を展開していく上で,YKKが最も重視したのがヒトの現地化であった。YKKの日本人駐在員たちは,各国の現地社会に溶け込み,その土地の人間になることによって,長い年月をかけて現地法人の経営を軌道に乗せた後,経営現地化の最終段階として自ら育成した現地人材にバトンを渡していった。
しかしながら,2000年以後,中国における生産需要が経験したことのないほどの急激なスピードで伸びる中,中国現地法人では数に限りある日本人駐在員だけでマネジメントできない状況となっていた。同時に,生産現場においても,労働者一人ひとりの技能やマネジメントスキルの熟達による生産性の向上が大きな課題となっており,これまで各国で展開してきた現地化施策を見直さざるを得なくなった。
そこでYKK中国グループは,現地の幹部化比率50%,および,生産現場労働者の技能向上と育成を踏まえた優秀な人材の定着を目的に,内部労働市場における現地従業員のマネジメント幹部の蓄積と外部労働市場の人材を中間労働市場へと転換させる人材マネジメント改革に着手する。こうした人材マネジメント改革の試みは,労働者側の関係特殊投資へのインセンティブとホールドアップ問題の緩和に関わり,次のステージとして日本人を中心としたグローバルコア人材の育成のあり方を根本的に変化させる可能性を持っている。
本稿では,YKK中国グループの人材マネジメント改革において中心的な役割を担った上海YKKジッパー社に注目し,その改革プロセスと成果について,人事担当者のみならず,日本人駐在員,現地従業員双方のインタビューを通じて検討する。同時に,本ケースによって,多くの日本企業が課題としているグローバル人材マネジメントについての議論の素材を提供する。
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小泉大輔 前川尚大 朴弘文 |
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