再考日本における公募増資時のアナウンスメントリターン
要約
米国の研究を中心に公募増資時のアナウンスメントリターン(AR)が負になることが確認されている.日本では1980年代以前は公募増資ARは正であるが,1990年後半以降のサンプルでは米国と同じように負となることが報告されている.本研究は,こうした公募増資のARの変化はなぜ生じているのかについて1980年から2009年までに日本で公募増資を行った企業を対象に検証を行った.これまで公募増資のARの決定要因に関する既存研究によって説明されてきた仮説に加え,新たに利益配分ルール仮説,ブックビルディング(BB)仮説,自己売買仮説をもとに検証している.主な検証結果は,第1に,利益配分ルールの廃止以前には,増資プレミアムと公募増資ARの間に正の関係がみられるが,利益配分ルール廃止以降,増資プレミアムと公募増資ARの間に統計的に有意な関係は無くなることがわかった.また,利益配分ルール撤廃以前の公募増資直後の無償交付ARは,その他の無償交付ARと比べると低いことがわかった.第2に,安定操作期間の長さが短い企業やBB方式を選択する企業は公募増資のARは低いことがわかった.安定操作期間の長さは,1980年代から2000年代にかけて短くなっていること,BB方式を利用する企業は,証券会社の安定操作を実施するリスクが低下していることがわかった.第3に,公募増資直前に自己株取得をアナウンスした企業の公募増資ARは低いこと,自己株取得アナウンスの直前に公募増資を行った企業の自己株取得ARは高いことがわかった.第4に,公募増資ARの変化は,発行企業の財務,発行内容の変化によるものではないこと,長期パフォーマンスは年代に応じて大きな違いはみられないことがわかった.これらの結果は,1980年代から1990年代にかけて公募増資時のアナウンスメントリターンが変化した理由には,いくつかの要因があり,利益配分ルール仮説,保証仮説,BB仮説,自己売買仮説が支持され,これまでのARの決定要因研究で指摘されている逆選択仮説,成長性仮説,需要曲線右下がり仮説,Windows of opportunity仮説では説明しにくいことを示唆している.
著者 | PDFへのリンク |
---|---|
加藤英明 鈴木健嗣 |
閲覧不可 |