自社株買い実施のタイミング
要約
本稿では,2004年から2013年までに行われた東証一部一般事業会社が行った,自社株買い実施のデータを用いて,自社株買いが株価が相対的に安い期間に実施されているかどうかを明らかにする。経営者は定款授権に基づく自社株買いを行うことで,自社株買いを実施することが可能となる期間(授権期間)を自由に選択することができる。本稿では,授権期間中の平均株価と授権期間前後の平均株価の比較を通じて,経営者のタイミング能力を検証する。
分析の結果,明らかになった事実は以下のとおりである。(1)企業は株価の低下を受けて,自社株買いの枠取得をアナウンスする。(2)自社株買いの枠を設定したものの,実際には取得しなかった企業は,実施した企業に比べて過去のリターンが高く,過小評価の程度は小さい傾向がある。(3)一方,自社株買いのをアナウンスしたものの,実施しなかった企業は,自社株買いの枠を取得しなかった企業に比べて過去のリターンは低く,枠を取得しなかった企業に比べると,過小評価される傾向にある。(4)自社株買いを実施した企業の授権期間中の平均株価は,授権期間前後の平均株価に比べて有意に低く評価されているが,実施しなかった企業の平均株価は低く評価されていない。(5)枠取得のアナウンスに対するマーケットの反応は,自社株買いを実施しなかった企業に対して有意に低く,アナウンスの時点で,マーケットはタイミング能力を考慮している可能性がある。(6)授権期間中の平均株価が割安であるほど,企業は多くの株式を買い戻す傾向がある。これらの結果は,日本企業においても,企業は株価が相対的に割安に評価されている時点を選択して自社株買いを実施していることを示している。
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砂川伸幸 山口聖 |
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