イノベーションの社会物質性:「技術」と「組織」から差異化した異種混合の実践

要約

社会物質性をめぐる既存研究に共通する関心は、存在論として不可分な技術と組織の異種混合の実践を捉えることにあったと言って過言ではなかろう。ところが、これらの既存研究は、物質性を技術的根拠(オリコフスキー)や意味の表象(レオナルディー)に帰結させており、その結果として異種混合の実践を捉えてきたと批判されている。そこで本研究では、実践のうちに物象化されて捉えられた、技術と組織を人々の認識前提として置き、それらの認識前提から差異化されることによって異種混合の社会物質的実践が形成されるという視点を提示する。この視点に基づけば、差異化された異種混合の社会物質的実践は、既存の技術や組織のいずれとも異なった、情報価値を帯びたイノベーションとして観察できることになる。具体的に、本研究では、住友ゴムのエコタイヤ開発の事例において、既存の技術的基盤(解析技術や情報処理技術)や組織的背景(部門間の分業関係や産学間関係)からの差異化を通じて、コンセプトの異なるエコタイヤ開発だけではなく、その前提となる技術や組織、さらには基礎的な科学も、遂行的に生まれ続けてきたイノベーションのプロセスであることを分析する。

著者 PDFへのリンク

桑田敬太郎

松嶋登

閲覧不可