社会物質性のメタ理論

2018・13

要約

Abstract : In recent debates, sociomateriality has been discussed from the perspective of information and technology management. The aim of this study is to examine the meta-theories referred by research scholars who advocate sociomateriality. This concept has been controversial owing to the complexity of meta-theories. The referred meta-theories are built on different theoretical premises and contradict each other. In addition, the advocates may takes in the theoretical problem of meta-theories. By examining the meta-theories, we aim to identify the theoretical significance and remaining issues of sociomateriality.

Keywords : meta-theories of sociomateriality, actor network theory, organizational institutionalism, social constructionism, agential realism

本研究の目的は, 近年, 情報経営研究で注目されている社会物質性について, この概念の提唱者たちが参照してきたメタ理論を検討することにある. メタ理論を検討しなければならない背景には, 社会物質性概念の極めて論争的な性質がある. Kautz and Jensen(2013)は, 自らを宮廷道化師(court jester)の立場に置いた上で, 技術と組織の関係解明という教義が掲げられた宮廷において「新参の組織論者たち」が繰り広げている論争を批判的に描写していた.

曰く, この概念を生んだのは, 女王オリコフスキー(Wanda J. Orlikowski)である(Orlikowski, 2007). オリコフスキーがそれ以前に発表していた構造化モデル(Orlikowski, 1992; Orlikowski and Robey, 1991)の限界を克服するべく提示したのが社会物質性概念であり ), 技術と組織が根源的に不可分であることを強調し, 「一本の結び目のないロープのもつれた状態(entanglement)」(Orlikowski, 2007, p. 1438)であることを強調した関係的存在論(relational ontology)を打ち出してきた ). 片や, 若き王レオナルディ(Paul M. Leonardi)は, 技術と組織の関係を相互に影響しつつも, 機能的に区別された要素の「鱗状配列(imbrication)」として捉える表象的存在論(representational ontology)をもって女王に対抗してきた(Leonardi and Rodriguez-Lluesma, 2012, p. 82).

この女王と王の論争の詳細について, 本研究で詳しく議論することはしないが(詳細は, 松嶋(2015)を参照されたい), 興味深いのは, 同一概念に対して, 対立するほど異なった立場が示されていることである. それは, この概念の複雑さを示しており, 端からみれば単なる混乱状態とも映るであろう ).

本研究では, この混乱状態を, 社会物質性が参照してきたメタ理論の検討を通じて整理してみることにしたい. というのは, 社会物質性は, もともとはギデンズ(Anthony Giddens)の構造化理論をメタ理論として援用した概念が抱えた課題を克服すべく提唱されたものであり, その際に, 矢継ぎ早にアクターネットワーク理論(actor network theory: ANT), 制度派組織論(organizational institutionalism), 社会構成主義(social constructionism), そして物質的転回(material turn)を企図する各種の実在論(realism)など, 最新のメタ理論が参照されてきたのである.

換言すれば, 社会物質性概念の複雑さは, 援用されているメタ理論の複雑さであり, 概念の混乱も異なった前提を持つメタ理論を援用したことによる論理矛盾や,あるいはメタ理論が有する課題をそのまま引き継いでしまう場合もあるだろう.われわれには「メタ理論に拘るとメタメタになる」という経験的教訓があるのは百も承知だが ), 本研究では社会物質性が参照したメタ理論の世界に踏み込んでみたい. そこに, 社会物質性概念の理論的含意を識別し, 残された課題を見定めるヒントがあると考えられるからである.

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松嶋登

矢寺顕行

浦野充洋

吉野直人

貴島耕平

中原翔

桑田敬太郎

高山直

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