取締役の人的特性が税負担削減行動に及ぼす影響
2021・23
要約
本研究の目的は、取締役会における公認会計士、税理士、弁護士、国税庁勤務経験者それぞれが、また女性取締役が企業の税負担削減行動にどのような影響を及ぼすのかを検証することである。
わが国においては、2015年6月より「コーポレートガバナンス・コード〜会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために〜」が施行され、2016年7月には、国税庁により「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領の制定について」が公表された。これにより、現在、取締役会においては、適正申告の確保に積極的に関与し、取締役としての能力、性別や国籍の多様性を備えるとともに、トップマネジメントに対しても税金に関するガバナンスの整備が求められている。そこで、コーポレートガバナンス・コードで求められている人材を取締役会において確保した場合に、企業の税負担削減行動にどのような影響を与えるのかを検証するために、本研究では、取締役の人的特性に焦点を当て、実証的に分析する。
検証の結果、取締役会における弁護士資格保有者が節税能力を発揮せず、企業の税負担を軽減させていないことが示唆された。また、取締役に女性が選任されている企業では、税負担削減行動が抑制されていることが示されている。女性取締役が選任されている企業にサンプルを限定した場合には、税理士資格保有者が企業の税負担削減行動を抑制することが示唆されており、この結果は、有効にガバナンスが働いていれば、税金の知識を有する税理士資格保有者は適度な税負担削減行動を実施することが想定されるため、女性取締役の保守的な姿勢が税理士資格保有者の意図的な税務行動に影響した可能性が考えられる。
本研究の結果は、企業のトップマネジメントが中長期的な企業価値を向上させるために、どのような人材を取締役として選任すれば良いのかについて、意思決定をする際の有用な判断材料となることが期待される。
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岩崎 瑛美 |
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