戦略情報とインセンティブ情報による行動選択の研究

要約

本研究では、シナリオ実験を用いて、業務に関わるコミュニケーション内容・方法によって選択される行動が変容するか否かを検討した。また、情報の発信者への信頼や情報の受け手の特性が行動選択に及ぼす影響を検討した。
上司は部下に様々な形で情報を提供し、業務遂行を促進する。上司から部下への情報提供の形には,例えば,業務内容の詳細を明示したり,業務の意図を説明したり,業績評価基準を示したり,あるいは勤務時間外にコミュニケーションをとったりすることが挙げられる。ただし,このように情報を提供しても,上司が期待するような行動を部下が必ずしもとるわけではなく,上司の期待に反するような行動を部下がとってしまうこともありうる。この原因には,明示した業務内容の詳細や業績評価基準が実際の業務と整合していないことや,たとえ整合していても上司が考える情報の内容とは異なる理解を部下がしていること(いわゆるミスコミュニケーション)などが挙げられる。
具体的には,戦略情報およびインセンティブ情報の提供という2つの方策を取り上げ,これらの方策の組み合わせが情報理解の齟齬に与える影響を実験によって検証した。実験の結果から得られた主な示唆は,次の4つである。第1に,戦略情報を説明することによって戦略の論拠が強まり,上司の期待する行動選択を部下がとることである。第2に,インセンティブ情報が戦略情報の説明の効果を打ち消してしまうことである。第3に,認知欲求(NFC)の高い者がNFCの低い者よりも戦略にかかわる情報を長時間閲覧していたことである。
結果として,上司が部下にある行動選択を促すために、業績目標を設定したり、インセンティブ・システムを設計したりするときには,ミスコミュニケーションが生じないような配慮が必要であるとともに、部下の個人特性(NFC)に応じた情報提供のあり方にも注意が必要であることを示している。

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日置孝一
末松栄一郎

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