多国籍企業に対抗する地元企業の先行者優位性:自国市場を巡るP&Gと花王の攻防

2022・11

要約

近年、多国籍企業を含む多くの企業が海外市場への参入に苦戦している。しかしながら、多国籍企業に関する過去の研究は、海外市場へ参入する側にばかり注目しており、参入される側にはあまり注目していない。そこで本論文は、海外市場に参入する多国籍企業に対して、地元企業はどのような先行者優位性を獲得し、それをどのように維持しながら自国市場を防衛し続けているのかを明らかにすることを目的として、P&Gと花王の比較事例研究を行った。分析の結果、多国籍企業が自国市場へ参入する前に、地元企業は商品カテゴリーの拡充や流通機構の強化を行い、地元密着の稀少資源である店舗における商品棚スペ ースを先取りすることによって、多国籍企業に順調なスタートを切らせないようにしていたことや、多国籍企業が海外市場へ参入した後、新たな差別化商品で挽回を試みるのに対し、地元企業はその動きを先読みして準備していた競合商品ですぐさま反撃することによ って、自国市場を防衛し続けていたことが明らかになった。
学術的な貢献としては、多国籍企業に対して、地元企業が獲得した先行者優位性をどのように維持し、自国市場を防衛し続けているのかというメカニズムについて、定性的な証拠をもって提示した点が挙げられる。これらの議論は、地元企業が多国籍企業から自国市場を防衛し続けるためには、地元密着の稀少資源の先取りという先行者優位性を維持するための防衛策が重要であることを示した点で、過去の議論を更に一歩前進させたと考える。
また、本論文は、多国籍企業に対し、海外市場への参入は先行者である地元企業の抵抗が大きいため、決して容易ではないという実践的な示唆を与えている。特に、地元企業が地元の流通業者や小売業者と強固な関係を構築している場合には注意が必要である。一方、本論文は、多国籍企業から自国市場を防衛しようとしている地元企業に対しても、実践的な示唆を与えている。それは多国籍企業から自国市場を防衛する際には、地元企業は先行者優位性を獲得した上で、多国籍企業の動きを先読みし、準備し、常に反撃し続けることによって、先行者優位性を維持することが重要であるという点である。それと同時に、地元企業にとっては、地元の競合企業との地元包囲網を意識することも重要となる。

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鈴木 康嗣

北林 孝顕

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