(調査報告)超長寿企業の存続とビジネスシステムにかんする準備的研究 -兵庫県・城崎温泉における老舗旅館 古まん 日生下民夫氏にきく-
2025・19
要約
本稿は、奈良時代以来、城崎温泉の老舗旅館の日生下家当主で、「古まん」の代表取締役社長、日生下民夫氏への令和3(2021)年を皮切りとしたインタビューおよび一次史料の調査報告である。長期存続要因の解明に向けた準備的研究として位置づけられる。
同社の創業は奈良時代の養老元(717)年に遡るとされ、道智上人の来訪と温泉開湯の伝承を起点としている。また、「古まん」は宿泊業に限らず、湯守や神社の宮司といった地域的役割を担ってきた。こうした地域社会に不可欠な存在としての位置づけが、存続基盤の強化に寄与したと考えられる。さらに、後継者選定においては血縁に限定せず養子を迎えるなど、能力や状況に応じた柔軟な継承が行われてきた点も、長期存続の要因の一つである。
他方で、その歴史は必ずしも順風満帆ではない。江戸末期には経営難により屋敷や屋号を手放すなどの危機を経験している。また、大正期の震災による史料消失といった外的要因にも直面したが、寺院等に保管されていた記録の確認により歴史が補完されている。
さらに、城崎温泉全体の特徴として「共存共栄」の思想が挙げられる。震災復興時の協働、温泉資源の集中管理、景観および経営ルールの共有など、地域全体での連携体制は強固である。地域ブランドの維持を重視する姿勢が、温泉地全体の持続性を支えている。
以上のように、「古まん」の存続は、単一企業の経営努力にとどまらず、地域社会との関係性、文化的価値観、柔軟な継承、さらに共同体的運営によって支えられている。
これまで、われわれは長寿企業にかんする研究を進めてきた(曽根・吉村, 2002; 曽根, 2004; 曽根・加護野, 2007; 曽根, 2010; Sone & Lam, 2013; Sasaki & Sone, 2015; 上村・曽根, 2016; 吉村・曽根, 2017; 曽根, 2019; 曽根・吉村, 2019; Sone, Lam & Kagono, 2020; 加護野・曽根, 2020: 冨田・曽根; 2025, 曽根, 2026など)。これらの先行研究をもとに内容の事実確認や新たな発見事項についてインタビューや史料調査を通じて行った。これらは今後の長期存続企業の研究にとって一つの足がかりとなる重要な基盤となるものである。
なお、本研究は、令和5年度~令和8年度科学研究費補助金(基盤研究(B))「企業の存続と衰退に関する理論的・実証的研究-超長寿企業と長寿企業の比較分析-」(課題番号23K25546、代表:曽根秀一)による成果の一部である。
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曽根 秀一 |
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