修了生:北田皓嗣さん
1.プロフィールと卒業後の進路について簡単にお聞かせ下さい。
出身は大阪なのですが、縁があって神戸大学の経済学部に入学しました。学部時代は経済学部でしたが、大学院からは会計システムについて研究するために経営学研究科に移り、後期課程を修了しました。5年間、國部克彦研究室に所属し、MFCA(Material Flow Cost Accounting)の事例分析を中心に社会環境会計の研究を行うとともに、計算や会計の社会的な意味について研究してきました。また在学中に日本学術振興会の特別研究員に採用されたため、十分な研究費の支援を受けながら研究活動を進めることができました。卒業後は法政大学経営学部に専任講師として赴任しています。
2.なぜ神戸大学大学院経営学研究科への進学を選択されましたか?
お金を勘定するという行為に興味を持ったので、経営学研究科に進学しました。きっかけは、学部生のときに東アフリカのウガンダでNGO活動をするなかで印象的であった、両親を亡くし弟妹を養う当時高校生くらいの年代の女性のある行動にあります。彼女は日常的に十分な食事をとることができず、また、学費がなくて学校に通えないにも関わらず、不定期な収入があったときには、服を買ったり遊んだりしてすぐに使い果たしてしまっていました。欲求を満たした結果であるといえばそれまでなのですが、お金を勘定したり、貯蓄することは学習の結果であり、文化的で、社会的な実践なのだと強く感じました。開発経済学などが示唆することとは違う側面から問題にアプローチする必要があるのだと感じました。また会計関連の授業の先生たちの教えることへの熱心さが印象的で、経営学研究科に進学しました。
3.在学中、特に印象的な授業や出来事などはありましたか?
博士課程後期課程に進学したこともあり、授業よりも日常の研究活動のなかで印象的なことが多かったように感じます。ひとつは優秀な先輩と一緒に研究や調査をさせてもらったことです。博士課程に進学したころから、同じ研究領域の先輩と共同で論文を作成したり、一緒に企業などへの調査をさせてもらうようになりました。私が修士課程に進学した当初から、研究会や授業などでの先輩の発表や議論の内容に圧倒されるばかりでした。あまり年も変わらないのに、悔しさや勉強の足りない自分への恥ずかしさを感じることも多々あり、とてもよいベンチマーク的な存在でした。
もうひとつは、5年間、大学院にいて何より忘れられなかったことは、それまで難しいと思っていた論文の意味が、すっと腑に落ちるように分かった瞬間です。最初は馴染みがなかった社会学を用いた論文が、試行錯誤しながらいくつも読もうとしていくなかで、ある瞬間、何を言いたいのかよく分かるようになりましたし、もう少し先に進むには何が足りないのかを感じられる瞬間がありました。それ以降、楽しい仕事を選んだのだなと自然に感じるようになりました。
4.神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
まずひとつは、国際的に活躍することの意味について考え直したことです。指導教員の言葉のなかで気に入っているもののひとつの「”domestic”になればなるほど、”international”になっていく」にとても感銘を受けました。指導教員の教授の国際会議で活躍するのを耳にしたり、実際に海外の学会で他の研究者のひとたちから意見を求められる姿を見ていると、自分の属する社会やコミュニティを“represent”することが多様な国から参加者が集まる場では相手にとって重要な存在となるひとつの方法なのだなと感じました。
もうひとつは会計実践を文化的、社会的な文脈を通じて研究するという学問に出会ったことです。指導教員の教授の研究書をきっかけに、自分の研究を重ねていくなかで、ウガンダで感じた貯蓄や経済計算に関する違和感を解消する手がかりが、社会学や科学哲学に依拠した会計研究の周辺にあるのではないかと感じるようになりました。また、計算活動や会計実践の社会構築的な役割を探っていくなかで、貧困や開発の問題にも応用できる新しい道が開けるのではないかと感じるようになりました。
5.これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
入学するまで会計の知識はおろか、簿記さえ勉強したこともありませんでしたが、一般の入学試験を受けて入学しました。今も会計の知識については充実しているとは言えません。ただ入学後に実感したことのひとつは、研究を進めていくためには学部の授業で学習する知識以上のものが必要となります。そのためこれまでやってきたことが違っていても大学院に進学することにチャレンジしてみてください。もうひとつは英語をしっかり勉強して進学されると、入学してからの研究にスムーズに取り組めると思います。