会議のリーダーが知っておくべき10の原則 ホールシステム・アプローチで組織が変わる

著者名 マーヴィン・ワイスボード サンドラ・ジャノフ 著 金井壽宏 監修 野津智子 翻訳
タイトル 会議のリーダーが知っておくべき10の原則 ホールシステム・アプローチで組織が変わる
出版社 英治出版  2012年2月
価格 1900円 税別

書評

経営学の組織行動や人材マネジメントに詳しいひとなら、組織開発が60年以上もの長い歴史をもつ実践的な教育研究分野として、経営学の一角を占めてきたことをご存知だろう。たとえば、米国におけるMITの経営学分野では、組織論のダグラス・マクレガー(Douglas Murray McGregor)もエドガー・H.シャイン(Edgar H. Schein)も、黎明期より組織開発に携わってきた。英国では、集団療法のウィルフレッド・ビオン(W.R.Bion)が名声を高めたタヴィストック・クリニック(Tavistock Clinic)にタヴィストック人間関係研究所が併設され、フレッド・エメリー(Fred Emery)とエリック・トリスト(Eric Trist)らによる社会技術システム論やエリオット・ジャックス(Elliott Jaques)の社会分析が生まれた。MITにも、タヴィストックにも、グループダイナミクスの創始者のK.レヴィン(Kurt Lewin)の影響下で、このような動きが生まれていったのであった。

今回、監訳で出版してもらったマーヴィン・ワイスボード(Marvin Weisbord)とサンドラ・ジャノフ(Sandra Janoff)は、それぞれビジネス界と教育界に活躍の場をもち、ワイスボードは組織開発研究の歴史全体に非常に詳しく、ジャノフは集団療法で名高いイボンヌ・アガザリアン(Yvonne Agazarian)と共著があるぐらいの学究にして組織開発の実践家である。二人して、フューチャー・サーチとして知られる組織開発の技法を発明し普及させてきた。このフューチャー・サーチの淵源は、タヴィストック研究所が関与したサーチ・コンファレンスにまで遡る。

こんな堅固なバックグランドのある著者ふたりが、今回は会議をうまくリードする方法について、コンパクトな書籍を出した。元々は臨床心理学やカウンセリング心理学を目指していたわたしは、クリニカルな知を個人だけでなく、集団や組織に適用できることにずっと関心をもっていた。だから、組織開発は、経営学のなかではわたしの知的関心のルーツである。しかも、役に立つのがよい理論だというレヴィンの教えを信じるわたしにとって、実践に根付いた知的営為を学習者に要求するプロフェッショナルな分野が組織開発であった。恩師のシャインも、組織開発の歴史に名を残すひとなので、学部時代の河合隼雄氏の影響で、この研究分野に接すると自分の原点に回帰するような気持ちになれる。

ここで紹介させていただいている書籍そのものは、会議のリーダーシップをテーマにしているが、そもそも組織開発の初期の歴史は、いつも集団討議は会議とともにあった。食習慣の実験(レヴィン)でも、会社の合併後の統合への介入(エメリーとトリスト)でも集団で議論する場や会議の場が実験や介入の舞台であった。

経営者が会議等に費やしている時間を考えると、あるいはインフォーマルに議論している場にかかわる時間も加えると、リーダーシップ論がリーダーのいない討議集団の研究(ロバート・ベールズ、Robert Bales)を除けば、会議の場面におけるリーダーシップというテーマは手つかずであったといえよう。

そこに、”ぽん”とおもしろい一石を投じたのが本書である。しかも、この書籍は会議をなにかを決める場としてだけでなく、決めたことを実行するエネルギーやコミットメントを引き出す場とも捉えている点が興味深い。

経営者やライン・マネジャーの方々で会議をもっと意味あるものにしたいと思っておられる方、人材マネジメントや人材開発の専門家、会社全体にあるいは職場レベルでの変革を支援したいと思っているリーダーたちには、組織開発を学んでほしいし、そのためにまずは会議のやり方から変えていきたいというひとには、本書はうってつけの書籍である。

    目次

      はじめに

      序章 あらゆる会議を価値あるものに

      [パート1 会議をリードする]
      原則1 ホールシステムを集める
      原則2 コントロールできることをコントロールし、できないことは手放す
      原則3 全体“象”を探究する
      原則4 人々に責任を持ってもらう
      原則5 コモングラウンドを見つける

      [パート2 自分をマネジメントする]
      原則6 サブグルーピングを極める
      原則7 不安と仲良くなる
      原則8 投影に慣れる
      原則9 信頼できる権威者になる
      原則10 YESを意義深いものにしたいなら、NOと言えるようになる

      10の原則、6つのテクニック -まとめ

      終章 会議をひらくたび、少しずつ世界を変えていく

      参考文献

      監訳者解説(金井壽宏)