マーケティング・リフレーミング:視点が変わると価値が生まれる
著者名 | 栗木契 水越康介 吉田満梨 編著 |
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タイトル | マーケティング・リフレーミング:視点が変わると価値が生まれる |
出版社 | 有斐閣 2012年3月 |
価格 | 2400円 税別 |
書評
変わらないように見える日常生活。しかし、市場において何が売れるかは、時間とともに確実に変化していきます。本書の8つの事例研究は、この市場の新しい現実をつくり出すプロセスをリードした当事者たちにアプローチし、そこではさまざまな視点の切り替えが生じていたことをとらえています。
このような視点の切り替えの重要性は、これまでにもマーケティングの理論や実践において、繰り返し強調されてきました。「ポジショニング」や「リポジショニング」は、その代表的な概念です。
しかし、本書の執筆にあたって私たちは、新たな概念を導入する必要を感じ、セラピーの領域で用いられていた「リフレーミング」という概念に注目しました。なぜなら、「ポジショニング」や「リポジショニング」は、「何」をなすべきかについては的確な提示を行っているのですが、「どのように」なすべきかに踏み込むものではなかったからです。
私たちが、この「どのように、視点の切り替えを導くか」という問いが、マーケティングの実践上の重要課題であることに思い至るまでには、それが一筋縄ではいかない問題だということに気づく必要がありました。その要点は、「創造性の逆説」だと言うことができます。創造性の逆説とは、「創造的になろうとすると、創造的になれない」というパラドクスです。これは裏返すと、「逆に創造的になろうと思わず楽しくやっていると、いつの間にか創造的になっているということが起こる」ということです。
つまり、マーケティングにおいて視点の切り替えを導く際には、「創造的になろう」「リポジショニングをしよう」と、力むのではなく、逆に力を抜くことが必要なのです。はぐらかされたような気がするかもしれませんが、この逆説的な態度は、創造のプロセスにおいては合理的です。なぜなら、視点の切り替えにあたっては、プロセスにおいて生じる「意識していなかった出会い」を受け止めることができる、柔軟な心の姿勢が不可欠だからです。
マーケティングを実践するプロセスにおいて、視点は、「変える」のではなく、「変わる」のです。したがって、マーケティングの実践にあたっては、問題を最短経路で効率的に解決しようとするのではなく、五感にはたらきかける、ゆったりとしたコミュニーションや、安心できる場づくりに取り組むことで、まずは力を抜いてアプローチする心の姿勢を整えていくことが必要となります。あるいは、自らの問題や制約だと思われることを性急に切り捨てない度量が求められることになります。このマーケティングの実践において見落としてはならない課題を、本書は提起するとともに、その対処法となる現場の知恵を掘り起こします。
- 目次
プロローグ
第1部 市場の逆説性:リフレーミングのメカニズム
第1章 市場の逆説性を考える
第2章 京都の花街の再生:しなやかに生き続ける伝統
第3章 マルちゃん鍋用ラーメンの市場性:捨てる勇気が活路を生む
第2部 市場の定義:リフレーミングに挑む
第4章 市場の定義を考える
第5章 はとバスのV字回復:違和感を掘り下げると、可能性が見えてくる
第6章 ロック・フィールドのデザイン:未来を切り開く指針
第7章 生活の木のライフスタイル創造:実感に寄り添い、仲間を育てる
第3部 市場の共創性:リフレーミングを受け止める
第8章 市場の共創性を考える
第9章 キリンフリーの口コミ調査:使用シーンから広がる商品の価値
第10章 花王アタックNeoの製品開発:消費者インサイトをとらえる
第11章 産直市場グリーンファームのリフレーミング:逆風を前進のエネルギーに換える