モティベーションをまなぶ12の理論 ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!
著者名 | 鹿毛雅治 編著(金井壽宏 Theory12著) |
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タイトル | モティベーションをまなぶ12の理論 ゼロからわかる「やる気の心理学」入門! |
出版社 | 金剛出版 2012年4月 |
価格 | 3200円 税別 |
書評
2010年8月27日に、早稲田大学で開催された教育心理学会の年次大会に、日本を代表するモティベーション学者が参集される機会がありました。オーガナイザーは、本書の編者でもある慶應義塾大学の鹿毛雅治氏でした。私は、そのセッション全体に統合的なコメントをする立場で参加させてもらいました。
経営学で組織行動論を研究されている方のなかには、元々00パーセント心理学者としてのトレーニングを受けて、その後ビジネス・スクールで組織のなかの人間行動を研究し教育している方もいれば、学部も大学院も経営学者としてトレーニングを受けて、心理学者ではないけれども、心理学者が扱うトピックに、たとえばモティベーションの研究・教育に従事している方もいます。産業組織心理学会(JAIOP/The Japanese Association Of Industrial / Organizational Psychology)は、日本心理学会の応用心理学部会から、さらにスピンアウトしてできた学会なので(その経緯は、米国のSIOP=Society for Industrial & Organizational Psychologyが、APA(The American Psychological Association)と略称されるアメリカ心理学会からスピンオフした経緯とよく似ています)、そこには、この両方のタイプの研究者が集まりますが、通常は心理学者の会合に、経営学者が招かれることは、この国では稀でしょう。
さて、私自身はというと(このことを卑下するわけではありませんが)心理学者になりそこねた経営学者ですので、ルーツである心理学には(組織開発への関心という点では、臨床心理学も含め)ずっと敬意を払っています。米国に目を転じると、ビジネス・スクールのなかでも、マサチューセッツ工科大学(以降、MIT)やカーネギー・メロン大学は、基礎学問分野を尊重してそれを経営や組織の諸現象に応用することを重視してきました。学部時代は心理学にいちばんの関心をもち、その後はMITで経営学プロパー以上に心理学(や社会学)の基礎を重視するトレーニングを受けたので、私も留学から帰ってからは、慶應義塾大学の南隆男氏に奨められるままJAIOPに入りました。いまも会員ですが、幽霊会員化しております。
そんな状態が何年か続いているなか、心理学の産業界への応用にとくに焦点を合わせているわけではない(つまり、JAIOPではない)教育心理学会の場で、日本を世界に対して代表するような名だたるモティベーション学者が集まる場で、僭越ながら指定討論者の大役を仰せつかりました。感謝すべき出来事でした。恐らくモティベーションのような実践的なテーマについては、いつも仕事の世界への応用面、産業界への現実への適応を一生懸命に経営学者としてみてきたことと、同時に経営学で組織行動論の教育研究をしながら、経営学における組織行動論を基礎学問分野に根付かせることが大事だと思いました。また、心理学プロパーの方々との接触を尊重してきたことのおかげで生まれた機会だと理解し、繰り返し同じ言葉となりますが、僭越ながら、全部の報告を統合的に概括する、なまいきなコメントをさせていただきました。
カンファレンスのオーガナイザーであった鹿毛さんから、この『モティベーションをまなぶ12の理論』に1章、最終章ですが、寄稿するように奨められ、これまた勢いで、ありがたい機会と思い執筆をお引き受けしました。
この最終章でも、応用という面からパーソナルセオリーという視点で、わたしが長らく使ってきた言葉では、持論アプローチという視点で、自分の章を含む全12章を統括するような議論を書かせてもらいました。ちょうど大勢の仲間といっしょに同時期に仕上げた『実践知』の本の最終章と同じような意味合いをもっています。
モティベーションの理論も、熟達化(ものごとに秀でる、うまくなること)の理論も、それを実践に活かさないと話になりません。モティベーション理論を自分を鼓舞するのに役立てるか、また、まわりの人びとのやる気にうまく働きかけるのに役立てるか、という側面を重視するアプローチのことを、これまでわたしが使用してきた用語では、<実践家の持論アプローチ>として、本書で鹿毛さんがご指定を受けたキーワードでは、パーソナルセオリーとしてとらえ、モティベーション理論を実践につなげるよう学び方を提示させてもらいました。
学者の構築する理論も、その理論がよくできたものであれば実践と両立しますが、実践家が自分なりに「どうすればやる気が高まるか」という問題について、自分なりに実践に使用することができる持論(theory-in-practice, practical theory-in-use)を自分の言葉でもって言語化してほしいというのが本書の最終章でのねらいです。読者の皆さんには、11個ものバラエティでモティベーション諸理論を学んで、モティベーションを語るボキャブラリーを研ぎ澄ますべく第1章から第11章まで目を通したあと、さらに紙と鉛筆を持って第12章を読むことを通じて、自分なりのモティベーション持論を書き記していただきたいというのが、この章を執筆した私の願いです。
モティベーションにまつわる経験、ひとを動かすのがうまいひとから受けた薫陶、また、本書のようにモティベーション論の諸理論を解説した書籍の読書を基に、自分なりの(モティベーション理論ならぬ)モティベーション持論(my personal motivation theory-in-use)を言語化する、そういう素材に本書全体を役立ててください。
- 目次
序 「やる気の心理学」への招待|鹿毛雅治
Theory 1 好きこそものの上手なれ―内発的動機づけ 鹿毛雅治
Theory 2 夢や目標をもって生きよう!―自己決定理論 櫻井茂男
Theory 3 生物の根源的な動機を考える―接近・回避動機づけ 村山 航
Theory 4 努力は自分のためならず―他者志向的動機 伊藤忠弘
Theory 5 知られざる力―自動動機 及川昌典
Theory 6 楽しさと最適発達の現象学―フロー理論 浅川希洋志
Theory 7 何を目指して学ぶか―達成目標理論 中谷素之
Theory 8 自分のことをどう捉える?―自己認知 外山美樹
Theory 9 「できる」はできるという信念で決まる―セルフ・エフィカシー 伊藤圭子
Theory 10 自分の学習に自分から積極的にかかわる―自己制御学習 上淵 寿
Theory 11 どうして無気力になるのか―学習性無力感 大芦 治
Theory 12 自分や周りの人のやる気に働きかける―パーソナルセオリー 金井壽宏
あとがき