源泉??知を創造するリーダーシップ
著者名 | ジョセフ・ジャウォースキー 著 金井壽宏 監訳 野津智子 訳 |
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タイトル | 源泉??知を創造するリーダーシップ |
出版社 | 英治出版 2013年2月 |
価格 | 1900円 税別 |
書評
ジョゼフ・ジャウォースキーは、不思議なひとである。日本人でジャウォースキーと親しく語ったことがあるひとは、わたしの知る範囲では、野中郁次郎先生だけだ。海外の友だちから、あいつはジャウォースキーと似ていると言われたわたし自身の畏友は、野田智義さんで、ジャウォースキーの創設したリーダーシップ育成プログラムがALF(アメリカン・リーダーシップ・フォーラム)なら、野田さんがこの国に生み出したリーダーシップ育成プログラムは、ISL(インスティチュート・フォー・ストラティージック・リーダーシップ)である??最近、野田さんは、公志園という活動で、ソーシャル・エントレプレナーや東日本の震災復興のプロジェクトに力を入れているので、インスティチュート・フォー・ソーシャル・リーダーシップと名付ければよかったとも言っている。
本書を手にする方々のなかには、彼の前著、『シンクロニシティ』(これもEUREKAで以前に紹介させていただいいています)を読まれた方が多いだろう。ユング自身のシンクロニシティ(共時性)という概念が神秘的な要素を孕むので、不思議な自伝的著作がであったが、今回の書籍は、前作以降の著者の思考の進展、経験の深まりが描かれている。
ユングの共時性??たくさんの糸を、時間がたぐり寄せていくかのように、同じ時点で複数のできごとが意味ある形で同時に生じる現象を指すsynchronicityの訳語??の概念に、最初に真剣な興味を示したのは、ユングの治療を受けていた、ノーベル物理学賞のウォルフガング・パウリだった。ジャウォースキーの前作では、物理学者のデビッド・ボームとのロンドンでの出会いと、その後亡くなる前にもう一度、彼に会うことができなかったことが語られていた。新著では、その後、ボームを慕う物理学者たちとのイタリアにおける集いでの学びやひらめきが、記述されたりしている。これはほんの一例だが、そういう知的で、スピリチュアルな旅が描かれている。
書籍の構成、書き方としても、1章1章が短く、たくさんの章からなり、いくつかの章のストーリーは、別の章での出来事に合流していく。シンクロニシティを描くことは、とても難しいことだが、こういうスタイルでしか、このテーマについては書けないと著者は判断したのかもしれない。デビット・ボームと彼を慕うひとたちとの出会いと気づきに導かれた書籍である。
本書は、前作と同様に、非常に不思議な本だが、それでも、前作では、限定的な目標がしっかりあった。自伝的著作ではあったが、独自のリーダーシップ教育プログラムを実現するまでの著者の旅だとテーマがはっきりしていた。それに対して、最新作の本書は、このプログラムを育む経験も含む、彼のそれ以後のすべての出会い、出来事、自分の考えや思想、ひととのつながりの源流にあるもの、Source(源泉)について描くことがテーマとなっており、シンクロニシティが生じる源泉を探ろうとしているかのようである。言葉として、Sourceというのが書名にもなっているが、信仰の深いひとなら、この言葉遣いに、ほとんど神や仏に近い存在を思い浮かべたとしても不思議ではない。しかし、デビッド・ボームの影響を受けた、量子力学の分野で活躍する物理学者たちの所説も援用されているという意味では、あえて、宗教的とは呼びたくはない、新しいジャンルの珍しい書籍である。
- 目次
はじめに
プロローグ
1 企業家的な衝動の源泉――探究の旅が始まる
2 意識のより深い領域
3 U理論の誕生
4 創造的な発見のためのラボ
5 『赤い本』
6 バハへ
7 実証プロジェクト
8 ピューマ
9 厳しい教訓を学ぶ
10 オランダでの出会い
11 第四段階のリーダーたち
12 ふたたび、バハへ
13 パーリへの旅
14 有限の世界、無限の世界、運命の状態
15 非局所性と内蔵秩序
16 土着科学
17 内面の状態
18 真の全体との出会い
19 進化におけるパートナー
20 科学と、人間の持つ可能性
21 遠隔透視
22 人間の意思の強力な性質
23 集団の緊密なつながり
24 実在の源泉
25 先見の明
26 源泉を活用する――心の驚くべき役割
27 グループ・エントレインメント
28 情熱と集中力のパワー
29 源泉とつながる
30 知の創造の構造
31 限界をつくる信念体系を手放す
32 突然のひらめき
33 いにしえの先達
34 自然と神聖な空間
35 愛の力
36 規律ある道
37 第四段階のリーダーシップを育てる
38 第四段階の組織の足場をつくる
39 第四段階の企業――二つの物語
40 第四段階の組織の出現
エピローグ
監訳者解説 金井壽宏