企業価値評価の実証分析:モデルと会計情報の有用性検証


著者名 桜井久勝 編著
タイトル 企業価値評価の実証分析:モデルと会計情報の有用性検証
出版社 中央経済社 2010年6月
価格 5040円 税込

書評

本書は、会計情報を活用した企業価値評価をめぐる諸問題を実証的に分析した学術研究書です。本書では、企業が公表する会計情報に基づいて投資者が株式投資の意思決定のために行う企業価値の評価を研究の対象としています。そして、効率性の高い市場で企業価値評価を行う意義、各種の企業価値評価モデルの優劣比較、モデルの実践適用に必要な予測データの形成などの論点をめぐる実証分析と、分析結果に基づく考察を行っています。

本書は15の章を区分して収容した3部から構成されています。第1部では、会計情報の投資意思決定有用性をめぐる実証研究を概観したのち、効率性の高い証券市場で会計情報が有用性を発揮しうる可能性を考察し、その証拠が提示されます(第1~2章)。第2部は、会計情報を活用して株式の本源的価値を推定するために考案されてきた評価モデルとして、株価乗数モデルと割引現在価値モデルをとりあげて比較検討しています(第3~7章)。なかでも重要な研究課題は、配当割引モデル、割引キャッシュフロー・モデル、および残余利益モデルの優劣比較です。ここでの分析をふまえて本書は、これら3モデルが数学的には同値であるが、実践適用まで視野に入れた定性的および実証的な評価によれば、残余利益モデルが最も有望であるとの結論を導出しています。このモデルの実践適用には、現在の自己資本の把握に加えて、将来期間に関する利益と配当および資本コストの予測が必要になります。そこで第3部では、企業価値評価に要するこれらの変数の予測に焦点を当てて、変数の特性を分析するとともに、それをふまえた予測に役立つ経験的事実を明らかにしています。

本書の意義は、投資者が個人的な投資利益を獲得しうる機会を明らかにするにとどまらず、投資者の意思決定の結果として市場の効率性がますます高まり、証券価格が資金配分の良好な指標となるような市場の実現に向けて貢献することにあると考えています。

目次

第1部 市場効率性と会計情報の有用性
 第1章 投資意思決定有用性をめぐる実証研究の概観/桜井久勝(神戸大学)
 第2章 利益情報の有用性と会計アノマリー/大日方隆(東京大学)
第2部 会計情報を利用した企業価値評価モデル
 第3章 株価乗数モデルに基づく企業価値評価/音川和久(神戸大学)
 第4章 DDMとRIMの実証的な優劣比較の有効性/石川博行(大阪市立大学)
 第5章 企業価値評価モデルの実証的な優劣比較/土田俊也(兵庫県立大学)
 第6章 残余利益モデルの拡張/八重倉孝(法政大学)
 第7章 M&Aの企業価値評価における残余利益モデルの有効性
      /與三野禎倫(神戸大学)
第3部 企業価値評価に要する変数の分析
 第8章 企業価値評価モデルのインプットとしての利益
      /八重倉孝(法政大学)・若林公美(甲南大学)
 第9章 残余利益モデルを構成する財務比率の特性分析/村宮克彦(神戸大学)
 第10章 残余利益の持続性と企業価値評価/桜井貴憲(同志社大学)
 第11章 会計発生高と企業価値評価/須田一幸(早稲田大学)・髙田知実(神戸大学)
 第12章 増配・減配選択の決定要因分析/石川博行(大阪市立大学)
 第13章 利益率格差構造の国際比較分析/中野誠(一橋大学)
 第14章 資本コストの推計/後藤雅敏(神戸大学)・北川教央(神戸大学)
 第15章 株式取引方法変更が資本コストに及ぼす影響/児島幸治(関西学院大学)