人勢塾 ポジティブ心理学が人と組織を鍛える


著者名 金井壽宏
タイトル 人勢塾 ポジティブ心理学が人と組織を鍛える
出版社 小学館 2010年4月
価格 1400円 税抜

書評

現実の重要な問題に適用・応用が可能で、かつ学問的なベースのあるものについては、大学とゆかりのある場(この書籍の場合には、神戸大学経営学研究科とつながりのあるNPOである現代経営学研究所)が母体となり、大学発で産学協同の取り組みが望まれます。

かなり早い段階より、ポジティブ心理学に詳しい方から、それは心理学そのものとして取り上げるよりも、組織や人事や仕事などとのかかわりで、産業界の方たちと対話しながら学ぶのがよいというアドバイスを受けました。神戸大学大学院経営学研究科では、現代経営学研究所を有効なプラットフォームとして、産業界と学界とをうまく紡ぐプロジェクトが生まれることを希望して、すでに、ものづくりの問題を扱う「逸品塾」が活発な動きを見せておりました。

ひとや組織の問題を扱っている教員が比較的豊かな神戸大学であるので、平野光俊教授(人材マネジメント論、現実の世界で人事部長を経験されつつリゴラスに学究的な実践的な経営学者)、高橋潔教授(組織、仕事、人事など経営の現象に対して心理学を応用して解きほぐす産業組織心理学者)の助けをお借りして、金井(組織行動論、ディシプリンとしては心理学に基盤をおく経営学者)が創設した研究会が人勢塾です。ポジティブ心理学を通じて、人事部がひとや組織を元気にして勢いを再度つけてほしいという願いが、この塾の名前にあります。<人勢>とかいて、「じんせい」と読みますので、人事の専門家としてこれを究めていくことが、そのひとの<人生>も豊かにしてくれるようなことがあれば、うれしいことです。

わたしたち自身も、ポジティブ心理学の組織や人事への応用の問題を、塾生とともに実践的に学びたかったので、ポジティブ心理学の特定のテーマ、たとえば、リジリエンス(回復力)で専門家として活躍されるだけでなく、自らもオリンピックメダリストとして引退の節目を超えて回復された経験などを実践的にもつ、田中ウルヴェ京女史のような方をゲストに迎えました。ここでは全員を紹介しておりませんが、資生堂の新人研修、ギャラップ社のストレングス・ファインダーの活用、組織開発を活かす術について、各分野から最高のゲストに来ていただけました。第1回目は、この国でいちはやくポジティブ心理学の重要性に気づかれ、すでに著書もおありだった島井哲志氏にお越しいただきました。

わたしにとって、研究会から書籍が生まれたのも初めてなら、研究会の場で撮られた写真(撮られているのも知らなかった)が表紙・裏表紙になった書籍も初めてのことでした。なによりも趣旨に賛同してくださり、参加される塾生の方々が高価な研究会であったにもかかわらず、また、リーマンショック後のきびしい折りにもかかわらず(ひょっとしたら、そのような折りだからこそ)、ポジティブ心理学の応用というテーマに参集くださったことがありがたいです。

人勢塾は、神戸大学経営学研究科と現代経営学研究所が中心になり、産業界との共同で実現されたものであり、それは今の大学が理想とするものです。元々は工学のみが得意だったものが、経営学でも実現しつつあることを、神戸大学の他の部局、それから他大学からも喜んでくださる声が聞こえて、そのこともうれしいことでした。

人勢塾は、その後、平野教授を中心に据えたI I期も終えて、さらなる展開を図って参ります。

目次

序章 人勢塾への道―ポジティブ心理学を組織・人事に実践的に応用するために
第1章 ポジティブ心理学
第2章 「感謝」が社内を変えていく
第3章 「強み」を生かした組織づくり
第4章 「フロー経験」を知る
第5章 ピーク経験と自己実現
第6章 HRから組織を変える
第7章 逆境を乗り越える力
第8章 その後の人勢塾
巻末付録 「人勢塾」事前シラバス抜粋