ポジティブな人だけがうまくいく−3:1の法則


著者名 バーバラ・フレドリクソン著 植木理恵監修 高橋由紀子訳 金井壽宏解説
タイトル ポジティブな人だけがうまくいく−3:1の法則
出版社 日本実業出版社 2010年7月
価格 1680円 税込

書評

ポジティブ心理学という興味ある動き、また、同時に誤解も招きやすい動きが、米国にひとつの新しい分野として存在し、それを産業組織心理学や経営学の組織行動論や人的資源管理論に応用しようとする動きがあることは、『人勢塾』を紹介したときに述べました。これに興味をもち、経営の実践にもつなげたい、人事や組織のメカニズムをもっと前向きにしていくために、ポジティブ組織行動論(POB)を、神戸大学のMBAでも、エグゼクティブ組織行動論(EOB)とともに、いつか立ち上げられたらと思っているぐらいです。

ポジティブ心理学という運動を興味ある動きとしてウェルカムだというひとは、働く個人も会社も経済も元気が乏しいときに、ポジティブな発想やアクションが大事だと思うひとたちの間で起こりつつあります。わたしも、それに与したいと思っています。他方で、わたしも尊敬するバーバラ・エーレンライクのようなひとが、指摘しているとおりなんでもおめでたく、元気よく済ませようと、軽薄に済ませるのでは、ほんとうの力にはつながらないはずです(詳しくは、つぎを参照『ポジティブ病の国、アメリカ』バーバラ・エーレンライク著、河出書房新社、2010年)。わたしは、ポジティブ心理学と耳にして、少し訝しがるひとの気持ちもわかります。そこらの誤解を解きほぐすような名著が待たれていました。

ポジティブ心理学は、なにもネガティブな側面をみないというわけではないことを、あらためて、しっかりと知ってほしいと思いますが、こんなタイミングで、第1回ポジティブ心理学賞を受賞したミシガン大学のバーバラ・フレドリクソンの著書(原著のタイトルは、Positivity)が出版されるという情報が伝えられるやいなや、そのことを喜び、解説を付けさせていただくことにしました。バーバラ・フレドリクソンは、すべてをポジティブで埋め尽くすことなどできないと想定しています。

わたしがよくあげる例ですが、世の中にずっとポジティブなひとなどいません。アニメ(元は小説)の『ポリアンナ』で「よかったこと探し」を生き抜く女性の物語がありますが、ポジティブ心理学は、いつもポジティブであれ、などは主張しません。むしろ、いやなこと、落ち込むこと、元気の失せることが、プライベートライフでも、仕事の世界でも起こります。ボストンを舞台にした1920年代はじめの家族物語、『ポリアンナ』も父の死から始まります。よかったこと探しは、実は、回復するための方策でした。

バーバラ・フレドリクソンは、ネガティブな感情にも進化論的に適応のために、役割を果たしていることを認めます。そのうえで、ポジティブな感情の働きを、理論的にはじめて解明したのが、彼女の業績ですが、この書籍では、日々生じる出来事のうち、ポジティブな感情がネガティブな感情を、3:1の比率を上回っていれば、うまくいくことを解明しました。しかも、このポジティビティ比の測定尺度(自己診断尺度)が、英語でウェブでもみられますが、この書籍のなかにも付いています。

ポジティブ心理学を少し誤解しかけているひとがいても、この書籍の翻訳のおかげで、より正しい形で、この国でも受け容れられるきっかけになれば、ありがたいことです。

目次

第1部 ポジティブ感情が人生に欠かせない理由
 第1章 ポジティビティに関する重要な事実
 第2章 ポジティビティは手段であって、目的ではない
 第3章 ポジティビティとは何か
 第4章 ポジティビティは精神の働きを広げる
 第5章 ポジティビティは最良の未来を作る
 第6章 立ち直りの早い人の共通点
 第7章 「ポジティビティ:ネガティビティ」感情の黄金比
第2部 ポジティビティ比を科学的に上げる方法
 第8章 自分の現在置を知る
 第9章 ネガティビティを減らす
 第10章 ポジティビティを増やす
 第11章 「繁栄」に続く未来へ