面白法人カヤック会社案内
著者名 | 柳澤大輔 著 金井壽宏 解説 |
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タイトル | 面白法人カヤック会社案内 |
出版社 | プレジデント社 2008年11月 |
価格 | 1429円 税別 |
書評
経営学者を長くやっていると、各界各所から「あそこにこんなおもしろい会社がありますよ」と言って、教えて下さる声が聞こえてくる。また、経済団体やその他の組織が、特徴ある会社に賞を贈る審査の場に参加すると、そのような場でも、ほかとは違うユニークな会社の存在にびっくりさせられることがある。それをきっかけに調査をし、ケースを書かせていただくこともある。『プレジデント』誌の編集担当の方々もまた、お仕事がらいろんな会社をご存じだが、ご縁があって、ネット企業のカヤックという会社を紹介され、創業者の柳澤氏がじきじきに執筆した本書に解説を書かせていただくことになった(ちなみに、柳澤氏には、他社の経営理念を説明しながら、わが社を語る前著がある―『この「社則」、効果あり』祥伝社新書、これも2008年)。よほど、わたしの側で、「いつも興味ある会社を求めています!」という顔をしているのだろうか。
なにより驚かされるのは、Googleで「経営理念」と打ち込むと、なんとカヤックがいちばんにリストされることである。それぐらいに経営理念にこだわり、また、他社の経営理念を調べ上げている。そのカヤック自身の経営理念は、「つくるひとを増やす」という言葉だが、それは、本質を表すだけでなく、一度聞いただけでも、全社員(そしておそらくお客様やその他のステークホルダーにも)、覚えられる表現をめざしたものだ。ウェブページを制作したりする仕事をおこなっているが、本社は東京でなくあえて鎌倉だった、その気になれば世界中のどこでもにわか本社とまでいかなくても、にわか支社にできるという発想をもち、どこにいても、クリエーティブにいいものを「つくるひとを増やす」ことをめざしてきた。この理念そのものは、毎年全社員が集まって、この理念でいいのかどうか議論し、よりいいものがあれば、それに改訂される形で、ここまでたどり着いた。皆さんのおつとめの会社に非常にすばらしい理念があったとして、全社員がさっとそれを言えるか、わが社とおつきあいのある方々に知ってもらっているか、試してみてほしい。
ところで、書名のサブタイトルは、「給料はサイコロを振って決めています」である。こういう会社のたぶんほかにないだろう。カヤックという名前は、カヌーの一種をさす言葉ではなく、創業者3名の名前からつくられたものだ。ベンチャー系の共同創業者・経営者がつまずくのは、金銭にまつわることが多いというアドバイスを受け、その結果、給料は大事ではあるが、どこかそれだけにこだわっているわけではないということを表す象徴的制度をつくった。それが、サイコロ給だ。サイコロを振って、かりに4が出たら、4パーセント分、給料を上乗せするということだそうだ。そこに偶然からの楽しみ要素もあれば、お金だけのためにやっているわけではないことをプレイフルに、まさに「お遊び精神」で行っている姿がある。会社案内を、ふつうの単行本にしてしまう会社もまた稀であろう。
会社を表すカンパニーという言葉は、in company of という表現に残っているように、いっしょにいるということを意味する。その原義どおり、柳澤氏は、「なにをするか」よりも「だれとともにするか」を優先すると宣言している。いつか、柳澤氏の話をじっくり聞いたり、研究仲間といっしょに、カヤックを取材、調査して、人材育成とリーダーシップ、そして育成文化を含む組織文化について、興味深いケースを書きたいものだ。
目次
経営理念-社員全員が暗唱できなければ意味がない
行動指針-サイコロで給料決めてます
沿革-1998年、資本金3万3000円でスタート
事業内容-「絵の測り売り」から「どんぶりカフェ」まで
戦略-ユニークであり続ける仕組みを持っています
財務-上場するかどうかはわかりませんが、全部見せます
組織・採用-あなたのつくったもの、見せてください!