サーバント・リーダーシップ

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著者名 ロバート・K・グリーンリーフ著 金井壽宏監訳 金井真弓訳
タイトル サーバント・リーダーシップ
出版社 英治出版 2008年12月
価格 2800円 税別

書評

サーバント・リーダーシップは一見すると奇抜な着想に基づくリーダーシップ観を提供するものですが、新たなリーダー像が求められたり、リーダーの倫理観が問われたり、自分はリーダーシップなどという柄ではないというひとにもさりげないリーダー行動をとってもらううえで、さらに、ビジネスの世界だけでなく政治、行政、財団、NPO、より身近には家庭、財団、学生のゼミ幹事にまで成り立ちうる考えになりつつあります。そのエッセンスは一言でいえば、リーダーの側が、フォロワーたちに対して奉仕するという姿勢から成り立つような独自のリーダーシップ像にあります。これを提示したのは、長らくAT&Tに勤務していた実務家、ロバート・K・グリーンリーフという人物です。著者のラストネームが「緑の葉」(グリーンなリーフ)というのに合わせた洒落ではないでしょうが、表紙は、クリスマスシーズンにも合わせるかのごとく、きれいなグリーン色で、わたしが監訳した本書がやっと上梓されました。

監訳者にとっては、原著では何度も読んだ書籍ですが、いざすべてを日本語にするとなるとたいへんな作業となりました。なにしろ訳書は500ページを裕に越す大著で、30年も生き延びてきた古典的労作の初の邦訳です。著者の読書暦を示すような多様な引用があり、すでに翻訳書がある文学、歴史、社会哲学の書籍からの引用を調べるだけでもたいへんな労力を要しました。このような作業を伴うこの翻訳プロジェクトは、すばらしいプロの翻訳家と細心の注意の行き届いた編集者とのチームでないとできあがらなかったと思っています。学者の構築するフォーマルな理論だけでなく、実践家が経験から言語化するプラクティカルなセオリー(持論と呼んでいる)に注目してきたわたしにとっては、グリーンリーフのこの著作は、彼のリーダーシップ持論の書籍でもあり、貴重な文献でした。彼がくぐった経験、経験のなかで出会ったひとたちからの薫陶、そして折りにふれ読んできた書物等から、自分なりに編み出した持論が、奉仕型のリーダーシップという考え方として示されているので、一味違う代替的なリーダーシップ論として長く読まれる古典となることを願っています。米国では、本書の25周年記念版に、『7つの習慣』でおなじみのスティーブ・コヴィーと、『最強組織の法則』でよく知られたピーター・センゲとが、気持ちのこもったまえがきとあとがきを本書に寄せています。わたしもまた、この大著が少しでも読みやすくなるように、通常の監訳よりも長い解説を付けました。

30年近くも欧米では読み続けられてきた重要な書籍ですが、今日のタイミングで上梓されることも意味あることだと思っています。ひとつには、経営者の仕事は謝ることなのかと子どもが誤解しては困るほど、リーダーの倫理観が問われています。そんな時代にこそ、読まれるべき清冽な書籍です。使命観をもって使命に向かうフォロワーに尽くすリーダー像に、エシカル・リーダーシップを求める立場から手にとる方もきっとおられることでしょう。また、他方で、もう管理職などになってリーダーシップなど発揮したくないし、そういう柄ではないと思っておられるひとたちが増えています。古くは、1960年代の米国にも、アンチ・リーダーシップ・ワクチンという言葉(ジョンソン政権等の閣僚経験者であったジョン・ガードナーの言葉)がありました。もうリーダーシップを賛美するなどという病気にかからないぞといって、あらゆる権威に挑戦した60年代の反戦世代がこれを服用したというわけです。時代は変わって、今またこの国、日本においても、ぐいぐいとひとを引っ張るリーダーシップには向かないと思ってリーダーシップから身を引いているひとが蔓延しつつあります。60年代の米国とその背景は違いますが、こんなときこそ、これまでと違うオルターナティブなリーダーシップ像でありながら、MITのピーター・センゲが「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきものはただ一冊、本書だけだ」と断言したのが、グリーンリーフのこの書籍です。そういう意味では、経営者やベテラン管理職、人事部の方々だけでなく、ひとを動かす管理職にはなりたくないという、これからミドルになるひとたちにも読んでほしいです。

明治大学の野田稔氏を始め、組織におけるミドルの疲弊・崩壊を危惧する声が高らかになっています。また、この数年は経営トップを巻き込んだ不祥事や、3年内にやめてしまう若者も気になります。それと同等に気がかりなのが、管理職にはなりたくないというひとたちです。一方で、社会経済環境が数年きびしくなりそうなときに、ひとを導くうえでなんらかの哲学的、社会思想的な支えが必要だと思いつつあるリーダーが各分野におられます。このような動きが目立つようになりつつあります。「シーカー」(宗教的な意味合いをもって「求道者」を意味すると同時に、文字通りなにか心の拠り所を探索しているひとに、広く手にしてもらいたいです。機軸に迷ったときにこそ、厳しい時代に光明を求めるためにも、読まれるべき書籍だとわたしは思っています。読まれ方はいろいろだと思いますが、サーバント・リーダーシップという興味ある持論、実践家の魂から生まれた持論が、日本の実践家のなかにも、リーダーシップのあり方を内省し、新しいスタイルを探索する一助となれば、たいへんにうれしいことです。わたしが資生堂の池田守男氏と書いた『サーバント・リーダーシップ入門』、(かんき出版)アメリカン・リーダーシップ・フォーラムというサーバント・リーダーシップの教育のためのプログラムを開発した、ジョゼフ・ジャウォースキーの『シンクロニシティ』(英治出版)とあわせて、ご覧いただければ、幸いです。

目次

第1章 リーダーとしてのサーバント
第2章 サーバントとしての組織
第3章 サーバントとしてのトラスティ
第4章 企業におけるサーバント・リーダーシップ
第5章 教育におけるサーバント・リーダーシップ
第6章 財団におけるサーバント・リーダーシップ
第7章 教会におけるサーバント・リーダーシップ
第8章 サーバント・リーダー
第9章 官僚主義社会におけるサーバントとしての責任
第10章 アメリカと世界のリーダーシップ
第11章 心の旅