テキスト ライフサイクルから見た中小企業論


著者名 安田武彦 高橋徳行 忽那憲治 本庄裕司
タイトル テキスト ライフサイクルから見た中小企業論
出版社 同友館 2007年12月
価格 2800円 税別

書評

近年、中小企業やベンチャービジネスヘの関心は次第に高まりを見せている。その結果、教育の現場においても「中小企業論」、「ベンチャービジネス論」や「起業論」という名を持つ講義は少なからぬ大学において存在している。本書はそれらの講義を想定したささやかな試みのひとつである。本分野については、テキストはこれまでも(筆者達の尊敬する諸先生方のものを含め)多くのものが出版されてきている。これらのテキストはいずれも優れたものである。こうした状況の中、敢えて新しいテキストを作成するからには、それが今までのテキストにはなかった新しい視点を与えることが必要であろう。その意味で本書の特徴をあげると以下の点である。

第1に本テキストは企業の誕生、成長、退出といったライフサイクルの視点から構成されているということである。ベンチャービジネスであるか否かに関らず多くの企業は創業という関門をくぐり、量的、あるいは質的に安定期に到達し、周辺環境の変化に対応して更なる展開を図る。そしてそれぞれの過程において金融問題は常に企業にとって懸案事項である。こうした動学的過程とその間に生じる課題を織り込んだことが本テキストの特徴である。

本テキストの第2の特徴は欧米の産業組織論の成果を多く紹介していることである。中小企業論や中小企業政策は日本の「お家芸」のように見えるかもしれないが、それらは欧米においても多くの研究者にとっての研究の対象である。こうした欧米の研究者の日本と異なる特徴は主として産業組織諭、あるいは情報の経済学をもとに、統計データによる計量分析の手法を駆使して、中小企業の開業、成長、研究開発や退出、資金調達に係る問題を分析していることである。本書では従来の本分野のテキストで紹介されることの少なかったこうした成果を紹介している。

本書のテキストとしての第3の特徴は、中小企業金融についてである。従来のテキストにおいては、中小企業金融というと間接金融が中心に取り上げられたが、企業の誕生から成長といった時系列的推移に着目した本書では、企業を育てる直接金融についても詳細に論じる。

本書は学部学生、大学院修士課程の学生、(さらには中小企業行政に携わる国、地方の行政官等)を想定してまとめられた。この様に本書は読者としている対象層が広範なため、幾つかの工夫を行った。まず、学部学生のためには講義における理解を助けるべく、各章冒頭に「学習のポイント」、各章の最後に「まとめ」及び「理解を深めるための演習」をおき、ゼミナール等にも利用できるようにした。次に大学院修士課程の学生や行政官のためには更なる自主学習、政策立案の助けとなるように巻末に豊富な参考文献を掲載した。他方、企業のライフサイクルという視点から構成されたテキストであることから、通常同種のテキストで取りあげられることの多い産業集積や中小商業に係るさまざまな問題は敢えて取り上げなかった。

目次

第1章 中小企業のイメージ(高橋徳行 武蔵大学経済学部教授)
第2章 中小企業の誕生(安田武彦 東洋大学経済学部教授)
第3章 中小企業の成長(本庄裕司 中央大学商学部教授)
第4章 中小企業の組織(高橋徳行 武蔵大学経済学部教授)
第5章 中小企業の研究開発とイノベーション(本庄裕司 中央大学商学部教授)
第6章 中小企業の企業間連携・ネットワーク(安田武彦 東洋大学経済学部教授)
第7章 中小企業の退出・廃業(本庄裕司 中央大学商学部教授)
第8章 中小企業の金融(忽那憲治 神戸大学大学院経営学研究科教授)