できるナースのための超仕事術

著者名 陣田泰子 編著 金井壽宏 著(120-136頁)
タイトル できるナースのための超仕事術
出版社 MCメディカ社 2009年1月
価格 1600円 税別

書評

ご縁あって、上記の本に一章、貢献させていただくことになりました。看護系の雑誌で取材を受けて、連載記事にしてもらって、そのシリーズが書籍になりました。そのなかでモティベーション(やる気)の自己調整力というテーマで書かせていただきました。全体としては、ソーシャルスキルがテーマになっています。他の章では、上記の目次に見られますとおり、看護師に必要なプレゼンテーション・スキル、コミュニケーション・スキル(報連相)、アクティブ・リスニング・スキル(傾聴力)、アイデアを出す力、ストレス対処力、時間管理などが取り上げられています。企業にお勤めの方々には目にとまらない本でしょうが、経営学の組織行動論の射程範囲をご存知いただくのにいいと思っております。

さて、わたしの専攻は、組織の中の人間行動(略して、組織行動)という分野です。主として心理学、部分的に社会学を応用して、組織現象を「ひとの視点」から捉える分野です。学問的にも外延は、心理学、社会学に留まらず、人類学、労働経済学などまでかかわってきます。同時に、その応用先も、長らく経営学の中心的な研究対象だった企業だけでなく、病院、学校、生活協同組合、財団、NPO、官庁・自治体を含み、広範な分野にかかわってきています。最近では、神戸大学の組織行動グループで、Jリーガーの研究も実施してきました(まもなく、同僚の高橋潔教授の編著で、出版されますので、その暁には、その本も、ホームページで紹介されることでしょう)。組織行動の応用範囲がこのように広範で多様である理由は、どの分野に組織や管理が存在し、そのなかの人間行動や協働、集団過程が問題となるからです。また、組織のなかで働く人びとのモティベーションやキャリア、彼らのエネルギーを結集するリーダーシップもまた問題となるからです。

わたし自身は、時間の制約から、病院や学校等の本格的な調査に取り組んだことはありませんが、ヒアリングや取材、講演などの働きかけやお誘いは非常に多くなりました(わたしが時間破産しているために、残念ながら、ほとんど対応できていません)。しかし、医療分野だけは、若干ですがコンタクトがあります。たぶん、健康の問題に自分も自然に興味もっていることもあろうかと思います。そのため、医師のキャリアの問題をめぐって研究室に来客もあれば、お医者さんたちとキャリアと制度・組織の問題について対談したこともあります。思えば、神戸大学のMBAには、毎年医師の方が数名、年度によっては4、5名来られることもあります。谷武幸名誉教授が医療経営の研究会を神戸大学六甲台のキャンパスでもたれたりもしていました。身近には、今、わたしの大学院のゼミには、看護師である男性の院生が看護師の感情労働に興味をもってがんばって研究していますし、MBAとPhDをとって看護管理の大学教員を経て、大病院の副院長・看護総部長をしているひともいます。また、お誘いがあり、看護管理の巨大な学会が神戸で開かれたり、薬剤師関係のファーマシューティカル・コミュニケーション学会(発起大会)が神戸大学で引かれたときには、僭越にも基調報告をさせてもらったことまであります。

本書は、わたしにとっては、そういう流れからの成果物です。看護の世界で活躍される方々むけに『スマートナース』という雑誌があるのですが、その中に「ナースのためのソーシャルスキル」というシリーズがあり、わたしもそのなかでていねいな取材を受け、誌上に登場させていただくことになりました。「モティベーションに持論をもとう―やる気を自分で調整して、落ち込みナースも復活だ」というタイトルで、モティベーションの問題に、「自己調整(self-regulation)という考え方を鍵に、これまで経営学におけるリーダーシップ論でもモティベーション論でも、経営者や管理職を念頭に展開してきた「持論アプローチ」を適用したものです(それぞれについて、拙著で日経文庫の『リーダーシップ入門』とNTT出版から出ている『働くみんなのモティベーション論』に、持論アプローチについてより学術的に書いております)。eurekaをご覧になる方一般には縁遠い看護の世界に従事するひとに必要なソーシャルスキルのついて書かれた書籍ですが、神戸大学の経営学研究者に、けっこう多様分野の方々からのアプローチがあるということを知っていただくのもよろしいかと思って、自著紹介欄に載せるかどうか迷ったのですが、掲載することとしました。看護師さんだけでなく、看護師さんたちと接したり、協働したりするひとに、お読みいただけたらと思います。

目次

第1章 コミュニケーション編
第2章 セルフプロデュース編