競争的価値創発プロセス概念とケース記述の手法 〜競争プロセス、デザイン、そして身体性〜

要約

マーケティングという現実は、「市場という他者」との交錯する関係の中に生まれる。マーケティングという課業は、個人の心理の中、あるいは1つの組織の中で完結する仕事ではない。その主題は、個人や組織の外部にある市場(消費者や流通業者や競争者)からのさまざまの働きかけに対処しつつ、逆にそれら他者に対しての働きかけを秩序づけることにある。こうした他者との交錯するプロセスに対して、他分野にはない特別の関心をマーケティング研究者は向けてきた。

働きかけそして働きかけられる結果、起こるところの出来事の連鎖を科学的に記述する方法として、ケース記述がある。しかし、ケース記述者がみずから、それら出来事を、読者にとって(あるいは、当事者自身にとって)意味ある物語(意味あるメッセージを含み、深い共感を与える物語 narrative)として構成するのは容易なことではない。さらに加えて、それを研究の伝統に位置づけることはさらに難しい。そのために、ケース記述に先立って記述のための理論的立場を得ておくことは大切なことである。

本稿には2つの課題がある。その第1は、マーケティングにおいて交錯する諸プロセスをケースとして記述するための指針となる1つの理論的立場を明らかにすることである。それを、「競争的価値創発プロセス(以下では、競争的創発プロセス)」と名づけている。そして、第2の課題として、この競争的創発プロセスの考え方に基づいて交錯するマーケティング諸プロセスのケース記述のための見取り図を示すことがある。そのために、ケース記述の要諦を整理しなければならない。まずは、競争的創発プロセス概念の出発点となった、競争的使用価値概念を本稿の議論に関連する限りで紹介しよう。

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石井淳藏

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