技術・技能・ノウハウの継承に関する調査結果報告

要約

本調査は,安全で安心に働くことができる職場づくり,持続可能な企業づくりの基礎となる「技術・技能・ノウハウの継承」に関し,それぞれの職場・企業においてその実態をどのように認識し,どういった具体的な取り組みを進めているかを調査しようとしたものである。この調査結果から判明した技能継承における障害・課題やその解決手段等について考察・検証するとともに,先進的事例については共有化できるよう情報提供を行い,また対社会へ向けた何らかの提言としてまとめることを本調査の最終的な課題としている。

本調査は近畿2府4県および石川県・福井県の地域連合会と経営者協会の共同で実施された。本調査では郵送によるアンケート調査という方式を採用した。総計8,106票のアンケート票が企業と労働組合に対して郵送され(企業4,172票,労働組合3,934票),回答締切日は2006年7月30日であった。有効回答数は2,234票(企業862票,労働組合1,372票)で,回収率は27.6%(企業20.7%,労働組合4.9%
)であった。今回の実態調査から得られた主要な結果を,アンケート調査票の項目ごとに要約すると,以下の5点にまとめることができる。
1)技術・技能・ノウハウの明確化について
技術・技能・ノウハウを明確にするために現在導入されている手法は,「マニュアルの文書化」である。今後についても同様に「マニュアルの文書化」を重要視する方向性にある。
2)技術・技能・ノウハウの継承機会について
技術・技能・ノウハウの継承機会として,現時点では「OJT」(On-the-job Training)が最も重要視されている。しかし,今後の方針として「社内大学・社内研修」を技能継承の機会として活用していく動きもみられる。
3)技術・技能・ノウハウの継承者について
技術・技能・ノウハウの継承者の年齢は,概ね50歳代である。しかし,技能継承を目的とした雇用延長・再雇用制度についてはあまり普及していない。さらに,技能継承者に対する報酬制度を設けている企業は全体の僅か1割程度でしかない。
4)技術・技能・ノウハウの被継承者について
他方,被継承者の年齢は概ね30歳代である。また,被継承者として「中堅社員」が想定されている。技能継承のための手法としては,全ての被継承者に対して「同一の継承手法を用いている」企業が多く,被継承者のカテゴリーごとに別個の継承手法を用いている企業はそれほど多くない。
5)継承上の障害・課題について
技能継承上の障害としては,継承者や被継承者といった従業員サイドの問題よりも,むしろ全社的な組織上・システム上の問題が障害となっていると認識されている。また,具体的な障害としては,日常の業務に追われ,技能継承のための「時間的余裕がない」ことが問題であると認識されている。

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上林憲雄

福井直人

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