実証主義の科学的有用性:介入を目指す新たな科学思想としてのアクション・サイエンス
要約
近年の情報システム研究で注目されるデザイン・サイエンス(design science)は,科学的厳密性(scientific rigor)を求めたそれまでの議論が,実証主義的方法を採ったがゆえに失ったとされる,実務的有用性(practical relevance)1)の回復を目的に提唱された分析視角である.この議論は,当然ながら,「リガーとレリバンスの相克」という,情報システム研究全体で議論される問題に繋がっている.
ところが,この「リガーとレリバンスの相克」問題は,実は対等な立場から論じられてきたわけではない.情報システム研究が失ってしまった実務的有用性を回復するためには,科学的厳密性を求めるこれまでの議論が採用してきた実証主義的方法への偏重を是正し,多元的な方法論的アプローチを採るべきという解決策がすでに仕込まれていたからである.だからこそ,引用分析によって,現状としては相変わらず実証主義的方法を採用する研究が多数派であることが示されると(e.g., Orlikowski and Baroudi, 1991; Chen and Hirschheim, 2004),科学そのものへの疑念や,学界体制の変革の必要性などが主張される.
だが,果たして,科学的厳密性と実務的有用性を対立的に把握する,というのは正しい道なのだろうか?我々は決して,科学そのものを退けようとしているわけではないし,またそうすべきでもないだろう.問うべきは,「悪しき科学」に代わって,いかなる科学を求めるべきかにある.本稿では,情報システム研究にとっては水源とも位置づけられる行動科学(behavioral science)の中でも,経営学独自の科学思想へ深化していったアクション・サイエンス(action science)を振り返りながら,今後のデザイン・サイエンスが目指すべき道筋を見出してみたい.
以下,第二節では,情報システム研究において,有用性を取り戻すことを旗印として掲げたデザイン・サイエンスが,実証主義的方法への偏りを退けながらも,実務にとって有用な知見を保証しなかったことを顧みる.それは,多様な方法論の採用という道を選択したデザイン・サイエンスが有する,システムを外部から詳細に記述できれば有用な知見に繋がるだろうという楽観的発想に起因する.第三節では,単なる外部記述を超え,実務への介入を志向した,経営学における行動科学の展開とその科学思想を検討する.行動科学もまた,その科学的厳密性と実務的有用性を巡って,数々の論争を巻き起こしてきた.だが,中でもアージリスの行動科学,およびその思想基盤を洗練したアクション・サイエンスは,効果的な介入のために,実証主義的方法を用いるという,新たな科学思想を提唱するものであった.第四節では,実証主義的アプローチの根底をなす,記述,因果的説明,仮説検証の三つの方法を,アクション・サイエンスのもとに再解釈する.我々は,ここに「リガーとレリバンスの相克」を解消する一つの方途として,科学的厳密性と実務的有用性を対立させない,科学的有用性(scientific relevance)を求めるという,もう一つの道を見出すことになる.
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福本俊樹
古賀広志 |
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