日中関係史1972-2012 II経済

著者名 服部健治 丸川知雄 編集(黄? V 第八章 五 著)
タイトル 日中関係史1972-2012 II経済
出版社 東京大学出版会 2012年8月
価格 3500円 税別

書評

日中関係の展開を総合的にとらえ、多面的かつ詳細に検討した三冊のシリーズものです。編者は「日中間で拡大深化する交流と協力、そして複雑化する利益と感情」が各巻を通底するモチーフであると冒頭に述べています。
今日、外交や国際政治の複雑な局面において日中双方にとって相互理解を深化させることは共通した重要な課題です。日中関係の専門家が執筆したこのシリーズは、日中関係のコンテキストにある世界観、価値観や歴史観、そして現状に関する認識を深めることに役に立つものです。
経済に限って言えば、地理的距離の近さ、そして言語や文化の親近性などの要因もありますが、日中双方の先人達の努力なしでは、経済交流が持続的に拡大し、双方にとって利益になるとは限らないことは、歴史を読み返すことから理解されます。
私自身も「小売業」という業界に中心として日中関係の歴史を理解してきました。ドメスティックな業界でも、国境を越えて理念、価値、知識や知恵を共有できる互いの努力と相互信頼の形成に関する再発見は、今日の日中関係の状況においてこそ重要な作業です。
以下は、『日中関係史1972-2012 Ⅱ経済』の目次です。

    目次
    I 日中経済関係の概観
     第一章 国交正常化以前の日中経済交流──嶋倉民生
      一 民間貿易協定の始動
      二 「政経不可分」と日中経済交流
    三 LT貿易の時代へ
      四 国交正常化への日中経済交流
    第二章 日中経済関係四〇年の概観──服部健治
      はじめに
      一 日中経済関係の必要十分条件
      二 年代ごとの日中経済関係の特色
      三 「安定」から「協調・競合」へ
      四 日中貿易と対中直接投資の概観
     第三章 外交官からみた日中経済交流 日中の経済外交を回顧して──松本盛雄
      一 対中経済協力開始の経緯とその意義
      二 天安門事件後の対中経済協力の復活と民間投資促進の枠組み
      三 中国のWTO加盟交渉の経緯と「世界の市場」に向けた転換
    第四章 通商関係からみた日中経済関係──波多野淳彦
    一 一九七〇年代の日中通商関係
    二 一九八〇年代の日中通商関係
    三 一九九〇年代の日中通商関係
    四 二〇〇〇年代の日中通商関係

    II 国交正常化実現から改革・開放の始動まで 一九七二~一九七八年
    第一章 概説──服部健治
    はじめに
     
    一 国交正常化直前の経済界の動き
    二 民間経済団体の動き
    三 相互理解への模索
    四 第一次中国ブームへ
     第二章 広州交易会の変遷──小島末夫
      一 中国の貿易体制
    二 広州交易会の軌跡
    三 日中契約高の比重低下
    四 相対的に縮小する広州交易会の役割
    第三章 日中長期貿易取り決めの締結──小島末夫
    はじめに
    一 取り決めの意義
    二 長期協定の評価
    三 問われる存在意義
    第四章 主な業界の動き
    はじめに──服部健治
    一 一九七〇年代における新日鐵の対中協力──三田地教一
    二 日本企業による石油化学プラントの建設──横井陽一
    三 一九五〇年代に始まったコマツの中国事業──茅田泰三
    四 改革・開放初期における工作機械産業の技術移転──広田紘一

    III 改革・開放の実行から南巡講話まで 一九七九~一九九一年
    第一章 概説──服部健治
    一 改革・開放のインパクト
    二 第二次中国ブームと新たな課題
    三 対中直接投資と加工貿易の拡大
    第二章 対中ODAの開始──関山 健
    はじめに
    一 中国の外資政策変更
    二 対中ODA開始決定の経緯
    三 対中ODAが果たした役割
    第三章 プラント契約問題──小島末夫
    はじめに
    一 爆発的なプラント契約の経過と特徴
    二 大量契約の背景と要因
    三 プラント契約の発効留保
    四 プラント建設の中止・延期と契約キャンセル
    第四章 貿易不均衡への対応──小島末夫
    はじめに
    一 中国側の大幅な貿易赤字の出現
    二 赤字縮小に向け輸出拡大策を強化
    三 日本側の対中輸入促進努力
    四 香港経由分を加算するとほぼ収支均衡
    第五章 主な業界の動き
    はじめに──服部健治
    一 中国の自動車産業政策と日本の自動車メーカーの対応──嶋原信治
    二 パナソニック(松下電器グループ)の中国事業の始まり──青木俊一郎
    三 日中物流業界の変遷──根岸宏和
    四 全日空の日中航空路線の開設──山崎邦生
    五 海運業をめぐる日中の相克──三浦良雄
    六 中国に傾斜する繊維・アパレル産業──辻美代・江花徹

    IV 南巡講話から中国のWTO加盟まで 一九九二~二〇〇〇年
    第一章 概説──服部健治
    一 対中投資の加速化
    二 貿易と投資の緊密化
    三 チャイナ・リス
    第二章 大連工業団地──梅村賢二
    一 大連工業団地構想の始まり
    二 日本企業の動きと大同団結へ
    三 合弁会社の設立
    四 販売不振と資金問題
    五 完売と合弁会社の終息
    六 大連工業団地プロジェクトの総括
    第三章 アジア通貨危機の影響──大西義久
    一 アジア通貨危機の発生
    二 香港、中国への影響
    三 日本の企業、銀行の対香港・中国ビジネスへの影響
    四 アジア通貨危機の中国への教訓とその後の金融制度改革への歩み
    第四章 投資現場が直面した課題──服部健治
    はじめに
    一 輸出増値税の不還付
    二 債権の未回収
    三 労務問題
    四 乱収費
    五 設備輸入の免税措置見直し
    六 外貨管理の規制強化
    第五章 広東国際信託投資公司(GITIC)の破産──梅村賢二
    一 GITIC破産の背景
    二 GITICと日本の銀行の関わり
    三 処理の経緯
    四 破産処理における問題点
    五 GITIC破産の影響
    第六章 知的財産権の侵害──日高賢治
    一 中国における知的財産権制度の歴史
    二 日中間の知財交流
    三 知的財産権分野における日中間の課題
    四 今後の課題
    第七章 主な業界の動き
    はじめに──服部健治
    一 資生堂の中国進出──鳥海康男
    二 ビール業界──西野昌男
    三 広告業──渡辺浩平
    四 通信事業──町田和久
    五 オートバイ産業──大原盛樹
    六 銀行業──梅村賢二
    七 総合商社──小山雅久

    V WTO加盟以降の日中経済関係 二〇〇一~二〇一二年
    第一章 概説──丸川知雄
    一 「世界の工場」中国
    二 「世界の市場」中国
    三 日本へ進出する中国
    四 経済摩擦
    第二章 個別日系企業をめぐるトラブルとその背景──渡辺浩平
    はじめに
    一 中国社会の変化
    二 中華の侮辱
    三 転換点としての「反日デモ」
    第三章 経済摩擦 初の対中セーフガード、対日アンチダンピング──小島末夫
    はじめに
    一 対中セーフガード
    二 活発化するアンチダンピング調査の立件
    第四章 食の安全問題──丸川知雄
    一 中国からの食料品輸入
    二 中国産食品の安全問題
    三 日本産食品の放射性物質問題
    第五章 環境協力──長瀬 誠
    はじめに
    一 環境案件への傾斜
    二 環境案件の事例紹介
    三 日中環境協力の体制・システム変化
    四 対中環境協力事業の評価
    五 おわりに
    第六章 研修・技能実習生をめぐる日中関係──岡室美恵子
    一 日本における外国人研修制度
    二 中国人研修・技能実習生への依存
    三 日本への研修派遣の始まり
    四 研修・技能実習生の課題
    五 研修・技能実習生制度の今後
    第七章 対中ODA(円借款)の終了──関山 健
    はじめに
    一 対中ODAをめぐる状況変化
    二 対中ODA見直し
    三 対中円借款の新規供与終了
    第八章 主な業界の動き
    はじめに──服部健治
    一 丸紅の中国不動産事業──徳永貴司
    二 保険業──藤田桂子
    三 証券業──関根栄一
    四 弁護士の中国業務──曾我貴志
    五 小売業──黄?
    六 日中の観光交流とJTB──坪井泰博

    VI 今後の日中経済関係
    終章 中国の経済大国化と日中関係──丸川知雄
    一 日中関係の変化
    二 競争相手としての中国
    三 日本と中国の新たな優位性

    あとがき
    日中経済関係年表